新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO),富士通,KDDI総合研究所は,既設光ファイバーを用いた大容量マルチバンド波長多重伝送技術の開発に成功した(ニュースリリース)。
IoTや人工知能(AI),ビッグデータ解析などを活用した新たなサービス,アプリケーションが増加する中で,情報処理の需要が急激に高まっている。
中でもAI・ビッグデータ解析は,処理遅延を解消するために,現在のコアクラウドによる集中データ処理環境から,エッジデータセンターでの分散処理環境へシフトすると予想されており,大容量・低遅延の伝送が求められている。
今回,研究グループは,ファイバー1本あたりの伝送容量を増やすために,利用する波長帯域をC帯からL帯(1565nm~1625nm),S帯(1460nm~1530nm),U帯(1625nm~1675nm),O帯(1260nm~1360nm)へと増やし,マルチバンド化することを目指した。
富士通は,マルチバンド伝送における伝送性能の劣化要因を考慮したシミュレーションモデルを構築し,マルチバンド波長多重システムの伝送設計を可能にした。
シミュレーションモデルには,商用光ファイバー特性の測定結果および一括波長変換器/マルチバンド増幅器の実験系検証により抽出した伝送パラメーターを反映することで,実機測定との誤差を1dB以内に抑える高精度シミュレーションを実現し,バンド帯間の相互作用や伝送性能の劣化を考慮した設計を可能にした。
また,KDDIは,これまで高密度波長分割多重(DWDM)伝送で活用されることがなかったO帯で,従来のC帯の2倍の周波数帯域幅の活用を可能にした。両者の技術を組み合わせ,既設の光ファイバーを用いて実際に伝送実験を行ない,O帯,S帯,C帯,L帯,U帯でのマルチバンド波長多重伝送(伝送距離45km)を実証し,従来のC帯のみの伝送と比べて波長多重度5.2倍の伝送が可能であることを示した。
さらにシミュレーションでは,S帯,C帯,L帯,U帯でのマルチバンド波長多重伝送(伝送距離560km)を確認した。
この技術を導入した光ファイバー通信網では,C帯を用いた商用光伝送と比較して5.2倍の波長多重度での伝送が期待でき,既設の光ファイバー設備を利活用することにより,経済的かつ省力的に伝送容量を拡大できる。
さらに研究グループは,拡張工事が難しい都市部や密集地でも容易に伝送容量を拡大でき,サービス開始までの時間短縮やコスト削減も期待できるとしている。