情報通信研究機構(NICT)は,現在市中に敷設されているものと同じ,既存の光ファイバで世界最大の伝送容量となる301Tb/sの伝送実験に成功し,従来の世界記録を更新した(ニュースリリース)。
これまで研究グループは,希土類添加光ファイバを使った増幅器とラマン増幅の増幅方式を駆使して,商用で利用されている波長帯(C帯,L帯)に加え,一般的に商用化されていないS帯も使用した光ファイバ伝送システムを構築し,大容量伝送を実証してきた。
更なる大容量化を実現するためには,新たな波長領域の開拓が必要だが,これまでE帯を含んだマルチバンド波長多重光ファイバ伝送システムは実現されていなかった。
研究グループは,国際共同研究グループが製作したE帯向けビスマス添加ファイバ光増幅器・光強度調整器を利用して,既存の光ファイバで世界最大の波長領域を持つ光ファイバ伝送システムを開発した。伝送システムは,光ファイバ,複数の光増幅器(ビスマス添加光ファイバ増幅器,ツリウム添加光ファイバ増幅器,エルビウム添加光ファイバ増幅器,ラマン増幅),送受信器,光強度調整器,合波器/分波器などから成る。
今回は,E帯,S帯,C帯,L帯を合わせて世界最大の27.8THzの周波数帯域幅(212nmの波長幅),1,097の波長数(E帯:315波,S帯:315波,C帯:200波,L帯:267波)を用いて,301Tb/sの波長多重信号の51km伝送を達成した。
信号の変調には,情報量が多い偏波多重QAM方式を使用し,64QAMをE帯,256QAMをS帯,C帯,L帯に使用した。過去の成果と比較して,伝送容量23%,周波数帯域幅41%の増加を達成した。
Beyond 5Gでは,新しいサービスにより爆発的に通信量が増加することが予想される。現在使用されている光ファイバ伝送システムに,新たな波長領域を導入して伝送容量を増加させることで,既設システムの耐用年数の延長に貢献できる。さらに,研究グループは,新型光ファイバと組み合わせることで,将来にわたる通信需要の増大に対応可能な光ファイバ伝送システムの実現が期待できるとしている。