東北大学の研究グループは,一次元鎖ヨウ素架橋白金錯体中において,カウンターアニオンにアルキル鎖を複数導入することで,一次元鎖白金三価錯体の実現に成功した(ニュースリリース)。
一次元鎖ハロゲン架橋白金系金属錯体は,多彩な化学構造・結晶構造に応じて,光物性をはじめとする様々な物性を示す。特に,一次元鎖ニッケル三価錯体は巨大三次非線形光学効果を示すことが知られており,一次元鎖三価錯体は光学材料への応用が期待される。
しかし,未だにニッケル以外の金属では実現されておらず,特に白金三価錯体は電荷移動吸収帯が低エネルギー側にシフトすると予想されていたため,ニッケル錯体を凌駕する巨大三次非線形光学効果が期待されていた。
今回研究グループは,カウンターアニオンに炭素鎖長が10以上となるアルキル鎖を取り入れた一次元鎖ヨウ素(I)架橋Pt錯体[Pt(en)2I](Asp-Cn)2·H2Oを合成した(nはアルキル鎖の炭素鎖長)。
合成した[Pt(en)2I](Asp-Cn)2·H2OはPtとIが交互に結合した一次元鎖構造を有し,その周囲を,アルキル鎖を有するカウンターイオンAsp-Cnが取り囲んでおり,Asp-Cnが生じる化学圧力が一次元鎖構造に波及すると考えられる。
一般に,一次元鎖ハロゲン架橋金属錯体の電子状態の推定には単結晶X線構造解析が用いられるが,アルキル鎖長が伸びるにつれ結晶構造解析は困難となり,別の手法を用いる必要があった。
そこで,赤外分光法によりN−H対称伸縮モードの分裂の有無を調べることで,PtII/PtIV混合原子価錯体とPtIII平均原子価錯体との区別が可能と考えた。
[Pt(en)2I](Asp-C10)2·H2Oでは260Kでブロードながら2本のN−H対称伸縮モードを確認する一方,アルキル鎖を伸ばした[Pt(en)2I](Asp-C14)2·H2Oでは,室温付近では先ほどと同様に2本のブロードなピーク構造が見られたが,低温では1本のN−H対称伸縮に収束する様子が確認された。
同様の挙動は[Pt(en)2I](Asp-C13)2·H2Oでも見られたことから,n≥13である[Pt(en)2I](Asp-Cn)2·H2Oにおいて,ついに一次元鎖白金三価錯体を実現することに成功した。
一次元鎖NiIII錯体で知られるように,今回見つかった一次元鎖PtIII錯体は巨大三次非線形光学材料,光スイッチ,高速光通信材料としての応用が期待されるという。また,これまでにない物性を秘めている可能性があり,今後さらなる物性研究への展開されるとしている。