埼玉大,光合成の強光耐性を高める手法を開発

埼玉大学の研究グループは,光合成の強光耐性を高める手法を開発することに成功した(ニュースリリース)。

光エネルギー変換で中心的な役割を担っている光化学系IIは,光に対して感受性が高く,強光下では速やかに失活してしまう。この現象は光阻害と呼ばれ,光合成生物の生育を妨げる大きな要因になっている。

これまでに光阻害のメカニズムについて多くの研究者が研究してきたが,いまだにそのメカニズムの全容は解明されていない。また,光阻害を緩和する方法論も確立されていない。

研究グループは,光合成の光阻害のメカニズム解明に取り組んできた。これまでに強光下で発生する活性酸素によって光化学系IIの修復が阻害され,光阻害が促進することを見出してきた。

光化学系IIの修復には新たなタンパク質の合成が必要になるが,タンパク質合成を動かす翻訳装置が活性酸素によって傷害を受けることや,翻訳装置の中でも特に翻訳因子EF-Tuが活性酸素の標的となることを明らかにしてきた。

そのメカニズムとして,EF-Tuのシステイン残基Cys82が活性酸素により酸化されると,EF-Tuが失活してしまい,タンパク質合成が抑制されることも明らかにした。

そこで研究グループは,酸化標的となるCys82をセリンに置換した改変型EF-Tuをシアノバクテリアで発現させた。その結果,強光下でもタンパク質合成が高く維持され,光化学系IIの修復能力が向上した。その結果として光化学系IIの光阻害が大きく抑制された。

しかし,強光下で遺伝子改変株の生育は改善されず,細胞の強光耐性は増大しなかった。その原因を探っていくと,光化学系IIの修復能力が上がることによって強光下でも光合成が活発になり,より多くの活性酸素が発生していることがわかった。

つまり,タンパク質合成系を強化するだけでは酸化ストレスがさらに悪化してしまうことが推測される。そこで,改変型EF-Tuを発現させたシアノバクテリアに,活性酸素消去系酵素であるスーパーオキシドディスムターゼとカタラーゼの遺伝子を過剰発現させてみた。

その結果,改変型EF-Tuによる活性酸素の過剰発生が抑えられ,光化学系IIの光阻害がさらに緩和した。さらに,新たな遺伝子改変株は強い強光下でも生育するようになった。したがって,タンパク質合成系の改変と抗酸化機構の改善を同時に行なうことにより,光合成と生育の両方の面で強光耐性が増大することが明らかになった。

研究グループは,この手法を微細藻類による物質生産に応用することにより,微細藻類の強光耐性を高め,有用物質を屋外の強い太陽光の下でも安定的に生産することが可能になるとしている。

キーワード:

関連記事

  • 阪大など、藻類の新たな光利用の仕組みをクライオ電子顕微鏡で解明

    大阪大学、大阪公立大学、チェコ  南ボヘミア大学、伊 ピサ大学は、クライオ電子顕微鏡法により真正眼点藻Trachydiscus minutusの光合成アンテナrVCPの立体構造を2.4Åの高分解能で解明した(ニ…

    2026.03.03
  • 農研機構、市販の装置で葉の光合成速度を高速・高精度に推定する手法を開発

    農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は、市販の軽量・小型装置による測定と数理モデルを組み合わせ、葉の光合成速度を高速かつ高精度に推定する手法を開発した(ニュースリリース)。 光合成速度の測定は約100年前から始まり…

    2026.02.27
  • 京大など、藻類の光合成ターボエンジンを制御する「ブレーキ」を発見

    京都大学、理化学研究所、京都女子大学は、光合成におけるCO2濃縮メカニズムを、不要な時に抑制する「ブレーキ役」のタンパク質「CBP1」を発見した(ニュースリリース)。 水中の微細藻類は、「CO2濃縮機構(CCM)」という…

    2026.02.19
  • 東大など、サンゴ白化の異なるメカニズムを発見

    東京大学と神戸大学は、造礁サンゴであるウスエダミドリイシを用いた共同実験から、高温による白化と栄養不足による白化では、共生藻の光合成との関係が大きく異なることを確認した(ニュースリリース)。 サンゴ礁は、多くの海洋生物に…

    2026.01.05
  • 広島大,伊豆諸島で自然海藻群集の光合成生産量を測定

    広島大学の研究グループは,海底からCO2が噴出し自然に高CO2環境となった東京都の伊豆諸島にある式根島沿岸の海藻藻場において,自然海藻群集の光合成生産量を測定した(ニュースリリース)。 人為起源のCO2の放出は未だ留まる…

    2025.11.07

新着ニュース

人気記事

編集部おすすめ

  • オプトキャリア