九州大学の研究グループは,従来のシアノバクテリアの生体機能の一部の代謝系を,光触媒を用いて代替することと,生成したアンモニアの代謝を抑止することにより,常温,常圧下で窒素と水からアンモニアと水素を合成することを可能とした(ニュースリリース)。
アンモニアは肥料や工業原料として広く使われる有用な化学薬品で,近年はグリーン水素の運搬の媒体としても期待されているが,400℃,200気圧以上という高温,高圧下で,窒素と水素を用いて合成されており,エネルギー多消費のプロセスだった。
一方で,ニトロゲナーゼという酵素では,常温,常圧下で空気中の窒素を活性化し,アデノシン三リン酸(ATP)をエネルギー源として水からアンモニアを合成するが,反応速度が非常に遅く,⻑時間の反応を⾏なうことができない。
今回,無機光触媒としてのチタニア(TiO2)と電子伝達系としてのメチルビオロゲン(MV)を用いて,光触媒の光励起で発生した電子を,MVを通してシアノバクテリアというバクテリアの細胞内のニトロゲナーゼに直接,伝達することで,大気中の窒素と水から従来の生体システムに比べ82倍という高い速度で,常温,常圧下において水素とアンモニアの合成を行なうことができることを見出した。
この生成速度は,従来の報告と比べても40倍以上の生成速度になる。さらに,シアノバクテリアの培養条件を最適化し,ニトロゲナーゼを含むヘテロシスト細胞を増加させたことで,比較的,早い反応速度でのアンモニアと水素の合成を実現することができた。
今回は,シアノバクテリアという生きている細胞内の酵素へ,光触媒で発生した電子を直接,MVの電子伝達系を用いて伝達することで,100時間以上の長期にわたり反応を行なうことができた。新しいアンモニアと水素の人工光合成の手法として期待される。
研究グループは,今後は,アンモニアの生成速度をさらに向上させることを目的に,他のタイプのニトロゲナーゼの応用と長期安定性の向上,電子伝達系の高速化,無機光触媒の可視光応答化による太陽光エネルギー変換効率の向上などを行なうとしている。