NIG,光合成生物の危機対策進化過程を解明

国立遺伝学研究所(NIG)は,光合成を行なう真核生物が光毒から危機対応策を進化させてきた進化過程を明らかにした(ニュースリリース)。

真核生物による葉緑体つまり光合成能の獲得は,真核細胞内へのシアノバクテリア(光合成バクテリア)の一次共生(紅藻,緑藻,植物の共通祖先)の他,それによって生じた真核藻類の二次またはさらに高次の共生により(珪藻,渦鞭毛藻,ミドリムシなどのそれぞれの祖先)様々な系統で独立に何度も起きたことが知られている。

また,細胞内に取り込んだ単細胞藻類の葉緑体を消化せずに数週間から数ヶ月間細胞内に保持し利用する生物(盗葉緑体性生物),藻類を長期にわたって任意共生させる単細胞生物が多くの系統で発見されている。

光合成は有害な活性酸素種(ROS)を生じ,その量は強光下で増加し,場合によっては細胞死に至る。また光合成装置の反応中心は光強度依存的に障害を受けるため,絶えず障害を受けた部品の交換が行なわれている。

強光下では,ROSがこの修復を遅らせ,光合成活性が低下するだけでなく,修復が遅れるとさらに高濃度のROSが発生し,負の連鎖が起こる。

これに対処するため,藻類や植物は様々な危機対応策を進化させている。これには,①細胞が移動し,細胞内に光吸収物質を産生し,または葉緑体の位置や向きを変えて葉緑体に当たる光を減少させる,②高濃度のROSを発生する重度に損傷を受けた葉緑体を消化して取り除く,③核ゲノムと葉緑体ゲノムが協調し,光合成装置の構成を光強度に対して最適化する,④ROSと光を感知して,これらの機構を調節するなどが含まれる。

これらの機構は,一次共生由来の葉緑体を有する生物だけでなく,それぞれ独立に生じた二次共生由来葉緑体を有する生物においても独自に進化している。

研究グループは様々な系統の生物の研究結果をまとめ,比較した。その結果,多種多様な系統でそれぞれ独立に何度も生じた盗葉緑体や光共生を行なう生物も,①,②,④の機構を進化させており,一部の生物は③の機構も発達させていることが明らかになった。

さらに,藻食性の単細胞生物も②と④に対応する機構を独立に進化させていることが示されたという。

この結果から,細胞内で光合成を行う真核生物は何度も独立に発生したが,光合成の毒性に対処するために,どの系統の生物もほぼ同じ機構を進化させたことが明らかになった。

さらに,光合成生物を細胞内に共生させ,葉緑体として利用するための機構は,藻類を捕食する段階から一時的な藻類細胞または葉緑体の保持の段階を経て,漸進的に進化したことも示唆されるとしている。

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