公大ら,有害なPFASをフッ素修飾NHCに変換

著者: sugi

大阪公立大学と大阪大学は,多数のフッ素原子を持つ電子受容性の強い含窒素ヘテロ環カルベン(NHC)を,その毒性から自然環境での拡散や生体内での蓄積が問題視されているパーフルオロアルキル化合物(PFAS) の一種,パーフルオロアルケンから合成する手法を開発した(ニュースリリース)。

窒素が結合した一重項カルベンを含む環状化合物,通称「含窒素ヘテロ環カルベン(NHC)」は1990年以降,錯体化学や触媒反応化学,材料化学の世界に革新をもたらし続けてきた。

NHCの環骨格には多彩な置換基を導入することができるため,「電子状態」と「立体環境」を独立に制御することができる。一重項カルベンは一般に,強い「電子供与性」と弱い「電子受容性」を併せ持つ独特な化学種で,その強い電子供与性を活用した研究が古くから展開されてきた。

しかし近年,実験に加えてコンピューターを用いた量子化学計算の側面からも,実はNHCの電子受容性は無視してはいけない程度に強く働いていることが明らかになり,「電子受容性の強いNHC」への関心が集まっている。

しかし現状では,NHCの電子受容性を高める分子構造のバリエーションが乏しく,それゆえに立体環境が大きく変化してしまうといった課題があるため,電子受容性の強さと立体環境の微細なチューニングを実現できる方法が強く望まれている。

研究では,電気陰性度が最大かつサイズの小さいフッ素原子を多数持つ含フッ素NHCの開発について,合成から電子状態・立体環境の実験的・理論的研究,およびそれを支持配位子とする遷移金属錯体を用いた触媒反応へ応用した。

今回合成した含フッ素NHCはテトラフルオロエチレンやヘキサフルオロベンゼンといった1,2-ジフルオロアルケン類縁体から二つのフッ素原子の脱離を経て得ることができる。また,フッ素原子の小ささゆえに,カルベン炭素周辺の立体環境の変化を最小限に抑えつつカルベンの電子受容性を高めることに成功した。

さらに,NHC配位子を持つ金錯体を用いた求電子的な分子活性化を鍵とする触媒的変換反応において,含フッ素NHCが従来のNHCと比べて触媒の活性を向上させることを実証した。

この成果は,NHCおよびそれを配位子とする遷移金属錯体の電子状態と立体環境を独立してチューニングする新たな指針を提供するもので,パーフルオロアルケンの新たな利用法を開拓したもの。

研究グループは,今後さらなる構造修飾などを経て,配位子としてはもちろんのこと,触媒や発光材料への応用といった幅広い展開が期待されるとしている。

キーワード:
 

関連記事

  • 科学大,分子捕捉/放出可能な芳香環チューブ開発

    東京科学大学の研究グループは,作製後に,多段階かつ複数箇所で化学修飾できる芳香環チューブの開発とその空間機能の開拓に成功した(ニュースリリース)。 リングやチューブなどの環状構造を持つ分子は,空間内部を分子の捕捉・識別・…

    2025.09.12
  • 阪大,光学材料に適したヘテロ[8]サーキュレンを合成

    大阪大学の研究グループは,入手容易な市販原料であるアニリン,キノン,ナフトール類を用いて電解合成を行なうことで,世界で初めて簡便・安全・低コストな非対称ヘテロ[8]サーキュレン骨格の構築に成功した(ニュースリリース)。 …

    2025.08.28
  • 立教大,TTA-UCの論文がAIPの注目論文に選出

    立教大学の研究グループが発表した総説論文「配位子保護金属クラスターを用いた三重項–三重項消滅フォトンアップコンバージョン:性能向上のための戦略」が,アメリカ物理学会(AIP)の学術誌に掲載され,注目論文に選出された(ニュ…

    2025.07.29
  • 香川大ら,有機エレクトロニクスに期待の分子性物質開発

    香川大学と兵庫県立大学は,既存の有機半導体に対して,太鼓型分子を連結させることで,新しい有機半導体を開発し,酸化還元に対する優れた安定性を見出した(ニュースリリース)。 フェロセンは,太鼓型の特徴的な構造をもつ分子で,電…

    2025.06.13
  • 名大ら,PAHを効率的に変換・可溶化し蛍光標識剤に

    名古屋大学と理化学研究所は,有機溶媒への溶解性が低いナノカーボンの一種である多環芳香族炭化水素(PAH)を効率的に可溶化・変換させる新手法として「高溶解性スルホニウム化」の開発に成功した(ニュースリリース)。 主に六員環…

    2025.04.25
  • 京大,光と電気化学刺激により二閉環体の合成に成功

    京都大学の研究グループは,光と電気化学刺激によりジアリールエテン2個をつないだ縮環二量体の2つのユニットが共に閉環した二閉環体の合成に成功し,この化合物が紫外・可視・近赤外光を吸収する3つの状態間で段階的にスイッチングす…

    2025.03.14
  • 分子研ら,光で分子が芳香族性を獲得する瞬間を観測

    分子科学研究所,大阪大学,京都大学は,フェムト秒時間分解インパルシブ誘導ラマン分光法(TR-ISRS)を活用し,励起状態での分子が曲がった構造のまま芳香族性を獲得し,その後ピコ秒のスケールで徐々に平面化していく様子を世界…

    2025.03.12
  • 早大ら,一次元らせんペロブスカイトで巨大光起電力実証

    早稲田大学,東京大学,筑波大学は,ハロゲン化鉛ペロブスカイトの一次元らせん構造および配列を有機キラル分子と結晶成長法により制御する手法を見出し,15Vを超える巨大な光起電力を発現させることに成功した(ニュースリリース)。…

    2025.03.08

新着ニュース

人気記事

編集部おすすめ

 
  • オプトキャリア