理化学研究所(理研)と日本タングステンは,2019年より開始した人体への影響を低く抑えつつウイルスに対する不活化効果の高い遠紫外LEDの開発を目指した共同研究において,波長230nmの遠紫外LED光源を開発し,これを集積化した高出力光源モジュールの開発に成功した(ニュースリリース)。
従来,紫外光はウイルスの不活化効果を有するため,空気浄化や浄水に利用されている。しかし,一般に使用される深紫外光は人体に有害とされる波長265nm〜280nmであり,人のいない空間での用途に限られていた。
そこで,近年では人体に対して無害とされる波長220nm〜230nmの紫外光(Far-UVC)が注目されている。波長265nm〜280nmの紫外光が人体に有害とされる理由は,この波長の光がDNAの吸収スペクトルに近く,皮膚や角膜を透過するためと考えられている。
一方で,波長230nmの遠紫外光は,ほとんどが皮膚や角膜の表面で吸収されることから,細胞にダメージを与えにくいとされている。しかし,ウイルスに対しては,ウイルスが人の細胞よりもはるかに小さいことから,不活化作用をもたらす。
しかしながら,深紫外LEDよりも更に短い波長を発光する遠紫外LEDでは,よりAl高濃度組成のAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)半導体を用いる結果,特にp型半導体組成においてドーピング種のMgの固溶限が低下しホール濃度を上げられず出力を高められないという問題があった。
この問題を解決するため,研究グループは,p型半導体側に対して分極ドーピング技術適用により,ホール濃度を高められた結果,出力を最大で3.2mWと大幅に高めた遠紫外LEDの開発に成功した。
また,ウイルス不活化に効果的な性能を持たせるため,この遠紫外LEDを集積し多数個搭載した光源モジュールを製作し,連続動作で出力88mW,パルス動作で100mWを大幅に超える出力210mWを達成した。
研究グループは,今後は,人体に対して無害とされる波長のLEDを活用して,医療における予防・検査,環境衛生などの分野への展開が期待されるとしている。