東大,南極海に分布する珪藻に新たな光利用を発見

東京大学の研究グループは,南極海に生息する植物プランクトンの珪藻が,低水温でも活性が維持されるロドプシンを液胞に局在させることを発見した(ニュースリリース)。

2000年,海洋細菌から微生物型ロドプシンと呼ばれる光エネルギー受容機構の存在が報告された。ロドプシンはレチナール色素を結合した膜タンパク質で,生物が利用可能な電気化学的ポテンシャルを生産する。

さらに近年,植物プランクトンなどの光合成生物からもロドプシン遺伝子が見つかっているが,なぜ光合成を行なえる植物プランクトンがロドプシンを持つのか,その理由はほとんど分かっていなかった。

研究グループは,ロドプシン遺伝子を保有する珪藻が数多く分布する南極海に着目した。南極海は低水温,低鉄濃度により,植物プランクトンの光合成活性が制限される。ロドプシンは光合成と同様に,低水温では活性が下がる一方,光合成とは異なり鉄を利用しないため,低い鉄濃度でも活性が維持されると予想された。

ここから,珪藻が持つロドプシンは,光合成が十分行なえない環境での代替光エネルギー受容機構として機能するという仮説を立て,南極海から分離した珪藻を対象とし,P. subcurvataの持つロドプシン(PsPPR)が低水温環境でイオンを輸送するか調べた結果,PsPPRは5,15 ℃という低水温環境で効率よくH+を輸送することが分かった。

さらにP.subcurvata細胞内におけるPsPPRが細胞内の液胞の膜上に局在することを見出した。一連の結果から,光合成活性が制限される南極海において,PsPPRは生存に必要なエネルギー消費を抑える役割を担う可能性が示された。

次に,鉄濃度が珪藻のロドプシンに与える影響を調べるため,属レベルで異なる3種の珪藻を用いて培養実験を実施した。鉄濃度が異なる培地で珪藻を培養し,培養後の細胞内のロドプシンの量を測定した結果,3種全ての珪藻において,低い鉄濃度培地でロドプシンの産生量が増加した。

また,南極海の海水を採取し,海水中に生息する微生物の遺伝子発現量を調べた結果,鉄欠乏状態で発現が増加する遺伝子とロドプシン遺伝子の発現量には正の相関が観察された。

これらの結果は,南極海に生息する広範な珪藻が,光合成に加えてロドプシンを併用することで,低い鉄濃度という光合成活性が制限される環境で巧みに生存していることを示唆している。

研究グループは,この成果は,植物プランクトンの新たな生存戦略を示しただけでなく,極域,さらには全球規模での生態系の理解深化に繋がることが期待されるとしている。

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