慶應義塾大学と米ライス大学は,一次元ナノ材料であるカーボンナノチューブが高密度・高配向に積層したカーボンナノチューブ配向膜を用いて,高速に変調(オン/オフ)できる偏光熱光源の開発に成功した(ニュースリリース)。
偏光した光は,物質分析やバイオ分析,創薬などの分野で重要であり,基礎研究から産業界まで広く活用されている。しかしながら,これらを応用した高感度化や時間依存測定には,マクロサイズの偏光板や光チョッパーを用いるため小型・集積化が困難なことや,高速な変調速度が必要にもかかわらず,最大でも数kHz程度と低速であることが問題となっていた。
今回,新たなナノマテリアルであるカーボンナノチューブ配向膜に着目し,広波長帯域で偏光発光する,高速変調が可能なマイクロ偏光熱光源を開発した。カーボンナノチューブ配向膜は,高密度・高配向度にカーボンナノチューブが最密充填され積層されており,1平方センチメートルあたり10兆本と非常に多くのカーボンナノチューブが充填されている。
研究グループは,そのカーボンナノチューブ膜を用いて,1µm四方の発光面を持つ電気駆動の熱発光デバイスを作製した。この素子の高速変調特性を調べるため,作製したデバイスに対して,高速の矩形電圧印加下での時間分解発光測定を行なった。
その結果,カーボンナノチューブ配向膜の偏光熱光源は,20MHz程度の高速変調性能を持つことが明らかとなった。さらに,シミュレーションによる解析を行なうことで高速変調性のメカニズムを解明したところ,カーボンナノチューブ配向膜の配向方向における高い熱伝導特性によることが明らかとなった。
カーボンナノチューブ配向膜を用いて開発したこの光源は,広波長域の偏光した高速赤外光をたった一つのチップ上のマイクロ光源で発生させる技術であり,熱光源・偏光板・光チョッパーといった複数のマクロな光学素子・機器を組み合わせていた従来技術をワンチップで高集積化する技術に相当する。
そのため,研究グループは,新たな偏光赤外技術を開拓する新技術となり,分析やセンシング技術への応用が可能なことから,材料開発,バイオ分析,創薬等への幅広い分野での応用展開が期待されるとしている。