大阪大学の研究グループは,協働ロボットを用いた自動評価装置で有毒元素を含まない次世代太陽電池材料をスピーディーに探索し,その性能向上に成功した(ニュースリリース)。
ペロブスカイト太陽電池は実用化に近づいているが,有毒元素である鉛を含むという課題がある。一方で,比較的低毒なビスマスやアンチモンといった元素から構成される次世代太陽電池の開発も進められている。
しかし,その溶液塗布プロセスでは元素組成,添加剤,熱処理温度など多くのプロセスパラメータを検討する必要があり,加えて太陽電池素子作製には多くの時間とコストがかかるため,研究開発はあまりすすんでいなかった。
そこで研究グループは,協働ロボットを用いた自動評価装置を独自開発し,大幅な測定時間の短縮(従来比約1/6)と高精度化(従来比5倍)に成功した。この装置はマイクロ波伝導度測定に加え,太陽電池薄膜の物性として重要な光吸収と発光スペクトルの測定,および薄膜表面の形態を観察できる光学顕微鏡測定も組み込んだ。
測定した光学顕微鏡写真は,濃淡のヒストグラム解析,高速フーリエ変換解析,粒子解析などを自動的に行なうことで,1つの薄膜試料から多くの高精度で均一な実験データを取得できる。
この自動評価装置を用いて,セシウム・ビスマス・アンチモン・ヨウ素(Cs-Bi-Sb-I)からなる非鉛太陽電池の組成,添加剤,熱処理温度を検討した。12種類の組成比,4種類の添加剤,3種類の添加剤濃度,および4種類の熱処理温度の組み合わせで576条件(=12×4×3×4)の薄膜試料を作製した。
自動測定の結果を基に,このうち40条件の太陽電池を作製して変換効率を評価したところ,添加剤なしで低い熱処理温度で作製した比較対象の素子の変換効率0.35%を,新たに探索した材料プロセス条件で2.36%へと向上した。
さらに,得られた太陽電池変換効率と自動化測定データを機械学習と統計解析で検討した結果,マイクロ波伝導度の信号と光学顕微鏡で得られた濃淡ヒストグラムの標準偏差が,高効率材料プロセスを探索する指針となることを見出した。
実際,高効率な鉛ペロブスカイト太陽電池薄膜を自動評価したところ,この探索指針と合致することが分かり,提案したモデルの妥当性を実証したとする。
今回得られた変換効率2.36%は,元素の種類を変えたり,溶液プロセスをより広く探索することで,さらに高効率化できる余地を多く残している。
したがって,研究グループは,この研究で開発した自動評価装置は,今後の研究を加速させることが期待できるとしている。