東京大学の研究グループは,世界で初めて二酸化ハフニウム(HfO2)系強誘電体が絶縁破壊を起こす様子を電極越しに可視化することに成功した(ニュースリリース)。
HfO2系強誘電体は薄膜でも十分な強誘電性を持ち,高密度集積が可能という特徴を持つため,大容量強誘電体メモリに実装可能な材料として注目を集めているが,HfO2系強誘電体は保持電界が絶縁破壊電界に匹敵する大きさであり耐久性が低いという課題があり,非破壊的な顕微手法でデバイスを観察することが求められていた。
研究グループは,基礎材料科学の分野で使われてきたレーザー励起光電子顕微鏡をデバイス観察に適用した。また,デバイスへ電圧を印加しながら欠陥密度が変化する様子を観察できるように電気計測システムを実装した「オペランド Laser-PEEM」装置を開発した。
この装置の特徴は,①収差補正技術と連続波レーザーの組み合わせにより約3nmの解像度を持つ,②4.66eVという低いエネルギーのレーザーを用いることで,欠陥に敏感な測定ができ,かつ約100nmにも及ぶ検出深さを持つ,③顕微鏡観察と同時に書き換え耐性を評価できるため,書き換え電圧印加以外のデバイスの特性変動要因を排除できる,などが挙げられる。
この装置を用いて,HfO2系強誘電体の中でも比較的耐久性の高いHf0.5Zr0.5O2を使ったクロスバー型キャパシタの絶縁破壊過程を調査した。それにより,絶縁破壊後の電気伝導パスを30nm厚の電極越しに明瞭に可視化することに成功した。
さらに,完全な絶縁破壊の直前にわずかなリーク電流が増加するという絶縁破壊の前兆があり,この時にキャパシタの1/4程度の範囲に渡って欠陥密度が増加した様子を世界で初めて可視化した。
従来,絶縁破壊直前のリーク電流の増加は,強誘電体膜中の全体に渡る欠陥の増加か,または局所的な伝導フィラメントの成長によるものであると考えられていた。
今回の結果から,それらの絶縁破壊過程モデルとは異なり,キャパシタの中の一部の領域でのみ欠陥密度が増加,それに伴い抵抗が変化するということを明らかにした。
今回可視化に成功した伝導パスは,電子デバイスの非破壊検査手法として広く用いられる走査型電子顕微鏡では観測することが困難。走査型電子顕微鏡とは異なる情報を与えるLaser-PEEMは,相補的で強力な検査手法であると言える。
今回の研究について研究グループは,より正確な絶縁破壊過程モデルが明らかとなり,強誘電体メモリデバイスの高信頼性化が加速するものだとしている。