国立環境研究所(NIES)は,約10年分のGOSAT(温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」)の太陽光誘起クロロフィル蛍光(SIF)データを解析することにより,モンゴル平原の草原植生に乾燥が与える影響とSIFとの関係について検証した(ニュースリリース)。
OSATの観測データからは主目的である温室効果ガス濃度だけでなく,陸域植生の光合成活性の指標として,植生が発するSIFの強度を算出することができる。
SIFはフラウンホーファー線と呼ばれる太陽光スペクトルの中に含まれる暗線とクロロフィル蛍光の波長が重なる波長帯を利用して観測される。植生の光合成活性の指標として陸域生態系研究に用いられてきており,「いぶき」は世界で初めて地球全体のSIFを観測している。
光合成過程は,気候変動による干ばつや異常な低温・高温などで負の影響を受けやすいため,その監視を行なっていく必要がある。この研究では,モンゴル国,中華人民共和国,ロシア連邦にまたがるモンゴル平原の草原を対象とした。
GOSATの観測データから算出したSIFデータ,気温や降水量,土壌水分量等の気象データ,他衛星(Aqua MODIS)の観測に基づく葉面積指数等を用いて,2009年から2018年末までの約10年間の時系列データの解析を行なった。さらに,モデルシミュレーションでは草原の光合成生産量も併せて推定した。
その結果,モンゴル平原の草原においては,植物の光合成活性に負の影響を与えるような土壌の乾燥により,葉が枯れなくてもSIFの値が下がることが明らかになった。
これまでも,人工衛星データから植物の状態を監視する手法は提案されていが,それらの指標では植物の葉が枯れた状態を検出することしかできなかった。一方,この研究で対象とした草本植生において,SIFは植物が枯れるより前に土壌乾燥が植生に与える負の影響を検出できる優れた指標だとする。
今後,さらに温暖化が進行すれば,モンゴル草原以外でも干ばつの頻度や強度が増える地域もあると予想されている。
研究グループは,後継機となるGOSAT-2や,空間的に詳細なSIF観測が可能となる打ち上げ計画中のGOSAT-GWなど,GOSATシリーズにより観測されるSIFは,干ばつが生態系に与えるダメージをいち早く検出することに役立つとしている。