東京大学の研究グループは,複数の亜鉛原子を近づけるシンプルな分子設計により,従来困難とされてきた可視光吸収を示すZn錯体の創出に成功した(ニュースリリース)。
12族元素であるZnは,Znの有するd10電子配置により,dブロック元素の中で例外的に,可視光吸収を示さない無色の錯体を形成する。
二つ以上のd10金属が近接する場合,金属間に相互作用が生じ,励起状態エネルギーが大きく変化する。実際,10族や11族元素においては,これらの相互作用を利用した光物性の変調は数多く報告されているが,12族元素のZn化合物においてはなかった。
そこで研究グループは,2つのZn原子を有するZn二核錯体において,Zn原子間距離(dZn-Zn)を制御するシンプルな分子設計に基づき,励起状態エネルギーを緻密に制御することで,可視光吸収を示すZn2+化合物の創出に取り組んだ。
この研究では,まず,二種の類似したケイ素(Si)架橋配位子を用い,dZn-Znが大きく異なる二種類のZn二核錯体1および2を新規に設計・合成した。
錯体1は従来のZn2+錯体と同様に無色の化合物であった一方,錯体2は黄色の化合物となった。単結晶X線構造解析の結果,錯体1および錯体2におけるdZn-Znの値は,錯体1が約5.71Åであった一方,錯体2は約2.93Åと非常に短いdZn-Znを有することがわかった。
光物性評価および量子化学計算の結果,錯体2においては短いdZn-ZnによってZn2+中心の空軌道間に相互作用が生じ,それに基づき励起状態エネルギーが大幅に低下することで,可視光吸収を実現したとわかった。
一方の長いdZn-Znを有する錯体1においては,そのようなZn2+間の相互作用は観測されなかった。このことは,量子化学計算に基づき求めた最低空軌道(LUMO)の分布図により,錯体1は1つのZn原子上に分布している一方,錯体2は,2つのZn原子上にまたがって分布している様子が視覚的にも理解できた。
今回,適切な配位子を用い,Zn2+間の距離を短く制御する分子設計を行なうことで,可視光吸収を実現し,呈色するZn化合物が合成できることが分かった。
また,可視光吸収を示した錯体2は,液体窒素温度下において,青色光を照射すると,赤橙色の可視光発光を示すこともわかり,Zn2+錯体が可視光発光材料としても有望となる可能性が見出された。
研究グループは,可視光機能材料として活用されてきた,高価で毒性の高い貴金属を中心金属に有する材料の代替として,安価で低毒性なZnを用いた様々な可視光機能材料の開発が期待されるとしている。