理化学研究所(理研)は,国宝油滴天目茶碗の青紫色の光彩,いわゆる曜変の発色を油滴の反射と釉薬の2次元回折格子構造によって説明した(ニュースリリース)。
曜変とは漆黒の釉薬が厚くかかった建盞(10~13世紀に中国福建省にあった窯で焼かれた,鉄質黒釉の天目茶碗)の内面に大小さまざまな斑点が浮かび,その周りが暈(かさ)のように青く輝き,その青紫色の光彩が茶碗を動かすと位置を変転させるものを指す。
この研究は,LED面光源を照明に使用すると,国宝油滴天目茶碗や重要文化財の木葉天目茶碗の彩色が鮮やかに撮影できることから,研究グループが天目茶碗の彩色と照明の関係を調査したことから始まった。
従来,曜変は釉薬表面に形成された薄膜の表面と裏面で反射した二つの光の波の重ね合わせによる干渉色と考えられてきた。しかし,曜変の暈のような光彩は薄膜干渉では説明できない。
そこで研究グループは,油滴に関する記述,および蓼冷汁天目の陶片の電子顕微鏡画像から,光彩が見られる油滴部分が,裏面に金属鉄の反射層を持つ2次元の正弦波の形をしたシワ構造であると考え,2次元のシワの回折による光彩について検討した。
その結果,油滴天目茶碗の光彩は,裏面に金属鉄の反射層がある周期900nm,深さ50~100nmの釉薬の2次元シワ構造による回折光と仮定しても矛盾しないことがわかった。このことから面光源の反射光の近傍に見られる青紫色の光彩を説明できる。
国宝の曜変天目茶碗や油滴天目茶碗などを,研究者が適切な照明の下で写真撮影や分光計測などを行うことは現時点では難しいため,先行研究や既存の写真から曜変の光彩を推測した。
研究グループは,可能であれば,実物を測定して曜変の光彩の原理を検証することにより,油滴天目や曜変天目茶碗の鑑賞のために最適な照明を提案できるとともに,製作当時の釉薬の配合や焼成方法を解明する糸口になることが期待されるとしている。