豊田中央研究所 (豊田中研),日本原子力研究開発機構(JAEA), 総合科学研究機構 (CROSS)は,大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設 (MLF)エネルギー分析型中性子イメージング装置「RADEN」のパルス中性子ビーム,および大型放射光施設SPring-8豊田ビームライン(BL33XU)の放射光X線を用いて,車載用大型燃料電池内部の水の挙動を明らかにすることに成功した(ニュースリリース)。
燃料電池では発電によって生成される水の管理が重要。水が燃料電池内部に滞留すると,電極への水素や酸素の供給が阻害され,発電性能が低下する恐れがある。電池の外に水を効率的に排出するためには,燃料電池内での水を観察し,水の滞留・排出機構を理解する必要がある。
燃料電池は金属ケースで覆われており,内部の水を観察するのが技術的に難しいことが多い。開発の現場ではコンピュータを用いたシミュレーションが力を発揮してきたが,実験によって実際の様子を観察することが強く求められてきた。
燃料電池は長さ数十㎝,厚さ数µm~数百µmのシート状の電極材料および電解質膜を積層して作られる。そのため燃料電池内部の水の挙動を理解するためには、「セル全体の水分布を可視化するための広視野観察」と,「セルの積層方向に沿った水移動を可視化するための高分解能観察」という二つの観察技術が必要。
研究グループはこれまで,大型放射光施設SPring-8豊田ビームラインにおいて,高分解能観察の技術開発を進めるとともに, J-PARCのエネルギー分析型中性子イメージング装置「RADEN」においてJAEA,CROSSと広視野観察の技術開発進めてきた。
実機セルを用いて,発電中の水分布をJ-PARC「RADEN」にて広視野観察した結果,MIRAIの開発過程においてシミュレーションで予測されていた特徴的な水の分布を実際に確認できた。
さらに,実機セルと同じ電極材料を用いて小型セルを作成し,SPring-8にて,発電中のセルにおける積層方向の水分布を高分解能観察したところ,カソード(電極材料)からアノード(電極材料)へのミクロな水移動が,実機セルで観察されたマクロな水分布に大きく影響を及ぼしていることがわかった。
この研究で開発した車載用燃料電池の水解析技術は,将来の燃料電池の高性能化に不可欠な役割を果たすもの。
研究グループは,現象解明による制御方法の最適化だけでなく,現象に対する正しい理解に基づいた材料・流路のコンセプトの立案とその検証など,燃料電池の研究開発を加速する様々な展開が期待されるとしている。