理研ら,物質の振舞に再評価を迫る圧力スケール決定

理化学研究所(理研),東北大学,独カールスルーエ工科大学は,新たな絶対圧力スケール(状態方程式)を決定し,それに基づいて,地球の核の化学組成に変更を迫る成果を発表した(ニュースリリース)。

高圧実験における圧力は,標準物質の密度と圧力の関係を示す状態方程式(圧力スケール)により計算される。このスケールが不確かだと,高圧下における現象を定量的に評価することができない。信頼できる圧力スケールの開発は,長い間,高圧科学の分野における基本的で重要な課題となっていた。

高圧下において,物質の縦波速度,横波速度および密度の三つの物性を独立に測定できれば,絶対圧力スケールが実現可能であることが提案されている。密度については粉末X線回折法という測定法が確立されている。縦波速度は,非弾性X線散乱法によって,50万気圧程度までは測定されていた。

研究グループは,非弾性X線散乱法を改良し,より高圧で縦波速度を測定するとともに,測定が困難な横波速度を測定できるかどうかを検討した。

横波は縦波と比べて非弾性散乱強度が微弱で,測定が難しいとされていた。そこで,大型放射光施設SPring-8のBL43LXU理研量子ナノダイナミクスビームラインの高強度で微小径(5μm径)の放射光X線ビームと,ダイヤモンドアンビル高圧発生装置,そして非弾性X線散乱法と粉末X線回折法という手法を組み合わせた。

加えてソーラースクリーンという特殊な装置を用いてX線光学系を改良し,試料からのシグナル以外のノイズを限界まで減らした。その結果,これまでノイズに埋もれていた横波からの非弾性散乱シグナルを,地球の核マントル境界(135万気圧)を超えた核内部の230万気圧の超高圧条件まで測定することに成功した。

この絶対圧力スケールを用いると,内核の条件では,固体鉄の密度が地震学的に観測された密度より8%大きく,従来の圧力スケールで見積もられていた密度との差の約2倍に当たりる。

この結果から,核に含まれる軽い物質は,地球の表層部(地殻)の質量の5倍以上に相当する量に見積もられることが分かった。これは,地球内部構造の議論において非常に重要な成果であり,太陽系外惑星の内部構造だけでなく,数百万気圧の高圧下における,物理学,化学,材料科学に関連するあらゆる物質の振る舞いに再評価を迫る重要な結果だという。

研究グループは今後,絶対圧力スケールの精度を高めるとともに,その適用できる圧力範囲を,地球の核内部の圧力より高い圧力の系外惑星内部にまで拡張し,地球の核と系外惑星の内部構造をより詳細に再評価するとしている。

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