宮崎大学の研究グループは,植物に作用する低分子化合物をスクリーニングする新しい手法を開発し,この手法を用いて植物の低温馴化能力を改変する物質を発見した(ニュースリリース)。
ヒトをはじめとする様々な生物のゲノム情報が明らかになったころから,化学を基盤に生命現象の解明を試みる「ケミカルバイオロジー」と呼ばれる学問領域が発展してきた。細胞内のタンパク質機能を制御する化合物の探索・開発などが代表的な研究例で,新しい医薬品や農薬の開発につながる。
植物は葉の表面に「クチクラ層」のような物質が透過しにくい層を持つこと,成熟した植物体はサイズが大きくなることから,植物細胞に作用する化合物を探索する際は主に発芽直後の植物が用いられてきた。しかしながら,実際には発芽してから子葉を展開するまでの期間よりもその後の成長期間の方がはるかに長くなる。
そのため,成熟した植物体を用いて効率的に化合物をスクリーニングすることができれば,植物の成長と発達を制御するシグナル伝達経路の理解を深めることが可能となる。
研究グループは,成熟した植物を使って化合物をスクリーニングする新しい実験系を開発した。まず,低温応答遺伝子COR15Aのプロモーター領域をホタルのルシフェラーゼ遺伝子に融合し,低温に応答して発光するシロイヌナズナを作出した。
この低温発光シロイヌナズナを「水中栽培」することで化合物が浸透しやすい状態にした。そして,通常栽培した植物同様に低温馴化すること,本葉一枚を切り取った後でも植物体同様の低温応答を示すことを明らかにした。
次に,水中栽培した低温発光シロイヌナズナの本葉を96穴マイクロプレートに一枚ずつ入れて,約500種類の化合物が低温応答に及ぼす影響を調べた。その結果,強力な低温応答阻害活性を示すいくつかの化合物が「1,4-ナフトキノン誘導体」に分類されることが分かった。
実際これらの化合物は,シロイヌナズナの低温馴化能力を低下させた。一連の研究により,発達した植物(の一部)を用いて化合物をスクリーニングする新しい実験系を確立した。同時に,こうした解析により特定の化合物と植物の環境応答との間の新たな関連性を見出すことが可能であることも示した。
研究グループはこの方法の応用により,今後,成熟した植物の様々な生理応答に影響を与える化合物の調査が可能になり,新たな農薬の開発などが期待されるとしている。また,低温馴化に関与する低温センサーは未だ見つかっていないので,今回開発された方法は低温センサーの実体解明にも道を拓くとしている。