東京大学の研究グループは,電場によって結晶のキラリティを制御し,キラリティを内包する物質に特有な磁気光学現象である磁気キラル二色性を電場によって制御できることを実証した(ニュースリリース)。
電気双極子が渦状に配列した秩序状態のことをフェロアキシャルと呼び,結晶内の原子配置の回転歪みによって特徴づけられる。その秩序変数は,軸性ベクトルであるフェロアキシャル・モーメントで与えられ,その符号は回転の向きに対応する。
この軸性ベクトルの方向に電場を印加すると電気双極子が電場方向に傾くことにより,すべての鏡映対称性が消失し,キラリティが発現する。すなわちフェロアキシャル物質に対して電場を印加することによりキラリティを誘起,さらには電場反転によりキラリティの符号を反転させるといったキラリティの電場制御が可能となる。
実際に,キラル物質に特有な旋光性が電場によって誘起されるという「電場誘起旋光効果」という現象が,いくつかのフェロアキシャル物質で観測されている。しかし一方で,もう一つのキラル物質特有の光学現象である磁気キラル二色性を電場で誘起・制御するといった報告はこれまでなかった。
研究グループは,これまで観測されたことのない電場印加によって誘起される磁気キラル二色性の実証をねらい,代表的なフェロアキシャル物質であるニッケルとチタンを含む酸化物NiTiO3に着目した。
同物質の単結晶試料を合成し,磁場および電場印加中での透過率測定を行ない,電場と磁場の印加下で得られた吸収係数と,電場と磁場なしの状態で得られた吸収係数の差を取ることにより,電場誘起磁気二色性の観測を試みた。
その結果,Ni d-d遷移に相当する短波長赤外線領域のエネルギー(0.79~0.84eV)において,顕著な電場誘起磁気キラル二色性が観測された。電場誘起磁気二色性のスペクトルが光の進行方向を反転させると反転し,さらに印加磁場の符号を反転させてもスペクトルは同様に反転した。
さらに電場誘起磁気二色性の大きさが印加磁場および電場に比例することも明らかとなり,観測された現象が電場誘起磁気二色性に相違ないことが確認された。この結果は,フェロアキシャル結晶を用いて,電場によって誘起される磁気キラル二色性を初めて観測した結果と位置付けられ,この現象を用いることにより,電場でも磁場でも光の吸収を制御することが可能となる。
研究グループは,キラリティ関連現象の電気的制御を達成するための舞台としてのフェロアキシャル物質の可能性を提示する結果であり,同物質を用いた新規なメモリや光学素子などといった応用へ展開されるとしている。