北海道大学の研究グループは,水と光のみを用いた水中結晶光合成という新たに開発した手法により,銅と酸素の空孔を戦略的に添加ドーピングすることでタングステン酸を用いた光学的臨界相を誘導できることを明らかにした(ニュースリリース)。
光応答性ナノ粒子を均一に分散させた材料は,太陽電池,光触媒など太陽光を念頭に置いた持続可能なエネルギー利用やフォトニクスの応用に役立っている。
しかし,従来の方法では紫外線と可視光までを利用するだけなので,太陽光の約40%以上を占める赤外域の光は未利用で,全太陽光をもれなく利用するための光電変換効率が悪いなどの制約があった。
研究グループは,水と光を用いて作製する低環境負荷な新たなナノ材料合成法である水中光合成(SPsC)を開発した。この手法を用いて,銅と酸素の空孔を戦略的にドーピングすることで非化学量論的タングステン酸(WO3・H2O)から光学臨界相を誘導できるようになった。これにより,ナノ結晶の合成過程における欠陥の調節を行ない,広い範囲の太陽光スペクトルを利用できる。
具体的には,過酸化水素に溶かしたタングステン溶液中で銅元素の濃度を変えながらドーピングすることで,非化学量論的タングステン酸の半導体ナノ構造を作ることに成功した。作製した材料を用いたデバイスにより,優れた光熱変換特性,光アシスト水蒸発特性,及び光電気化学特性を実証した。
次に,透過型電子顕微鏡を用いて原子構造解析(HRTEM)と電子線損失分光(EELS)による誘電率,光吸収(係数)の評価を行ない,さらに,密度汎関数理論に基づく第一原理計算と紫外線-可視光-近赤外分光分析による吸光度の実測と比較検討した。
これにより,この研究でカギとなる銅添加元素と酸素空孔の欠陥形成機構を明らかにし,当該現象の光機能発現効果を解明することができた。
研究グループは,作製した半導体デバイスは,特に近・中赤外光域での優れた光電流,光吸収などの光特性を示すため,今後の全太陽光利用のための光機能半導体・エネルギーデバイス材料開発として,ソーラーエネルギーの持続可能な利用技術としての進展への寄与が期待されるとしている。