北海道大学の研究グループは,光触媒電極ZnO/CuOナノ複合体(nanoforests,NFRs)を簡便で環境にやさしいガルバニック水中結晶光合成(G-SPSC)法により作製することに成功し,ZnO/CuO NFRsの光電気化学的水素生成速度及び微生物への増殖阻害作用を初めて測定した(ニュースリリース)。
脱炭素社会の実現が急務とされる昨今,二酸化炭素の排出抑制だけではなく固定化・再資源化が重要となる。
光エネルギーを利用した光水分解反応により水素(2H++2e–)生成を行なう光触媒と,二酸化炭素を還元し有価物を合成する微生物触媒を組み合わせた無機-生物ハイブリッド型人工光合成システムは無尽蔵に存在する天然資源(水とCO2,太陽光)から有価物を合成する新たな人工光合成技術として注目されている。
このシステムは光触媒のみで反応を駆動する人工光合成と比べて自己増殖能をもつ微生物を触媒とするため,安価で選択性が高く目的物質を生成できるという特長があり,一部生物反応を用いることから半人工光合成と呼ばれている。
研究グループはこの無機-生物ハイブリッド型人工光合成システムに用いる光触媒電極として,安価で豊富に存在し取り扱いが容易なZnO/CuO NFRsを環境負荷の低いG-SPSC法をさらに改良し,常温・常圧・中性条件下の蒸留水中で作製した。
作製したZnO/CuO NFRsの光電流値は-2.9mA/cm2であり、過去に報告された同様のナノ構造を有するZnO/CuO複合体と比較して3倍以上高い値を示した。また,これまで報告例のなかった光電気化学水素生成速度は0.63µmol/cm2/dayであり,これまで測定されていなかったZnO/CuONFRsの光電気化学的な水素生成能力を初めて明らかにした。
無機-生物ハイブリッド型人工光合成システムにZnO/CuO NFRsを光電カソードとして用いる際には微生物への影響が重要なポイントとなる。そこで研究では大腸菌(Escherichia coli)に対する増殖阻害を実験的に評価したところ,電極電位を0Vvs.RHEに制御することでCu2+の溶出による増殖阻害を防げることがわかった。
これらの研究成果により,ZnO/CuO NFRsを無機-生物ハイブリッド型人工光合成システムの光電カソードとして適用可能であることが初めて明らかとなり,研究グループは,その実現に一歩近づいたとしている。