京大,触媒と光エネルギーで未踏の化学反応を実現

京都大学の研究グループは,光照射下,環境負荷の少ない有機触媒を2つ組み合わせて用いることで,これまで実現困難とされてきた,電子豊富な芳香族化合物のメタ位選択的なアシル化反応の開発に成功した(ニュースリリース)。

1877年にシャルル・フリーデルとジェームス・クラフツにより発見された,フリーデル・クラフツ反応は,芳香族化合物のベンゼン環上にアルキル基やアシル基のような有機基を導入する手法であり,医農薬や化学材料を組み上げる強力な化学反応。

ベンゼン環上に電子供与性基が置換した電子豊富な芳香族化合物を原料に用いたフリーデル・クラフツ反応は,電子供与性基のオルト位とパラ位に,有機基が選択的に導入される。一方で,電子供与性基のメタ位に有機基を導入することは不可能だった。

このような背景のもと,遷移金属触媒を用いて,電子供与性基の置換した電子豊富な芳香族化合物のメタ位に有機基を導入する化学反応の開発が精力的に行なわれている。しかし,これら遷移金属触媒を用いた反応は,ベンゼン環上に,複雑な置換基やかさ高い置換基を導入した芳香族化合物を原料に用いる必要があった。

つまり,反応に利用できる原料に制限があることで,つくりだすことのできる芳香族化合物のバリエーションが乏しいといえる。また,触媒として金属塩を必要としていることから,より環境への負荷の少ない化学反応が求められる。

この研究では,青色LED照射下,環境負荷の少ない有機触媒を2つ組み合わせて用いることで,電子供与性基の置換した電子豊富な芳香族化合物のメタ位選択的アシル化反応の開発に成功した。これまで誰も到達できなかった,アンチ・フリーデル・クラフツ反応を開発したといえる。

この手法は,容易に入手可能で単純かつ電子豊富な芳香族化合物を利用できる,穏和な反応条件で実施できるため,官能基許容性に優れているという有機合成化学的な利点を持つ。したがって,これまで困難であった60種類以上の芳香族化合物をつくりだすことができた。

分子内に多数の官能基を有する複雑な医薬品や天然物のアシル化反応も実現した。この反応では,完璧なメタ位選択性が発現し,オルト位やパラ位選択的性の生成物は全く得られなかった。したがって,それら位置異性体を分離する煩雑な作業を必要としない。

これは,医農薬や化学材料を迅速かつ効率的に組み上げる強力な有機合成技術につながる成果。また,光エネルギーと希少価値の高い金属元素を含まない有機触媒を利用しているため,研究グループは,環境に優しい有機合成技術として持続可能な社会の実現に貢献するとしている。

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