JAMSTECら,人為的なエアロゾルの環境寄与を調査

海洋研究開発機構(JAMSTEC)と名古屋大学は,COVID-19パンデミック期の世界的なロックダウンに伴う排出量の減少により,大気中で作られる人為的なエアロゾル粒子量がどの程度変化し,地球の熱エネルギーバランスに影響を与えたかを明らかにした(ニュースリリース)。

これまでの観測データに基づく研究手法では,ロックダウンに伴う人間活動の変容の影響のみを取り出して詳細に評価することは困難だった。

研究グループは,JAMSTEC及びNASAで開発されてきた多種類の大気物質を同時に取り扱うことが可能なデータ同化解析システムとヨーロッパ宇宙機関(ESA)による衛星観測データから,人為的なエアロゾルの原料物質の排出量の変化を算出した上で,人為的なエアロゾル量の変化を推定することで,この課題を解決した。

ロックダウン中のNOxとSO2排出量の減少が地球規模のエアロゾル量にどの程度の変化をもたらしたかを見積もった結果,特に中国東部,米国東部,ヨーロッパでは,短期的にエアロゾル(硫酸塩,硝酸塩)の量が8〜21%減少していた。

これはNASAの衛星観測から得られた2015〜2019年の5年間と2020年の間のエアロゾル光学的深さ(エアロゾル粒子全体による太陽光の減少量)の変化の34%以上に相当しており,NOx・SO2排出量減少がロックダウン期間のエアロゾル変化に大きく寄与したことを示唆する。

また,モデルシミュレーションの詳細な分析により,SO2排出量の減少が,NOx排出量の減少によるエアロゾルの減少を部分的に打ち消すなど,複雑な生成メカニズムについても同時に明らかになった。

さらに,人為的なエアロゾル量の減少が地球全体の熱エネルギーバランスに与える影響を評価したところ,エアロゾルの日傘効果を弱め,地球に入る正味の熱エネルギーを0.14 W/m2増加させることがわかった。

この研究は,衛星観測から逆算した現実的な排出量変化に基づき,地球規模の人為的なエアロゾル量と気候への波及効果を評価した初めての例。エアロゾルの昇温効果は,この期間のCO2排出量のわずかな低下がもたらしうる冷却効果(-0.025W/m2,Forster et al.,2020)を打ち消すほど大きいことを明らかにした。

気候緩和策によるCO2排出削減と同時に進行すると考えられるエアロゾル削減が,打ち消し合う関係にあることは以前から知られていたが,この研究はその量的な関係を明らかにした。

研究グループは,これらの知見が今後の気候変動対策についての貴重な情報となるほか,予測の改善にもつながることが期待できるとしている。

その他関連ニュース

  • 東大ら,海洋エアロゾルの真の光吸収効率を決定 2023年09月21日
  • 東大,大気中の黒色炭素(すす)の光学的物性を解明 2023年04月26日
  • 東北大,歯科治療における飛沫・エアロゾルを可視化 2023年03月08日
  • 千葉大,火災が大気環境へ及ぼす影響の大きさを確認 2023年01月24日
  • 千葉大,リモートセンシングでコロナの行動制限検出 2022年10月05日
  • 岡山大,理論的に可能な光合成炭酸固定経路を発見 2022年03月17日
  • NIESら,南米のメタン放出量と気象の関係を解析 2021年12月15日
  • 北大ら,積雪中の光吸収性粒子の影響と由来を解明 2021年10月27日