分子研,ナノスケール非線形光学の増強効果を解明

分子科学研究所は,走査トンネル顕微鏡と波長可変フェムト秒パルスレーザー,高精度電磁場シミュレーションを巧みに組み合わせることで,プラズモニック金属ナノ探針の持つ超広帯域な非線形光学増強特性を世界に先駆けて見出し,そのメカニズムを解明することに成功した(ニュースリリース)。

探針増強非線形分光の発展・普及には,より広帯域な光の波長領域において金属探針直下で電場増強効果を発現させる必要がある。しかし,金属探針のプラズモニック光増強効果が実際のところどの程度広い波長領域において有効となり,ナノ非線形光学現象を誘起可能なのかについての知見は得られていなかった。

研究グループは,金ナノ探針の先端における非線形光学過程の増強効果が,可視域から中赤外域に至る非常に広い波長帯域において有効に発現することを明らかにした。

走査トンネル顕微鏡(STM)の金探針と平坦な金基板をnmスケールにまで近接させ,その隙間に赤外レーザーパルスを照射し,第二高調波発生(SHG)が探針先端と金基板の間のナノギャップ空間で顕著に増大することを見出した。

さらに,SHGの探針増強効果は1300nmから1800nm(650nmから900nmのSHG光)の入射光にわたって有効だと判明し,広帯域な探針増強非線形光学特性を初めて解明した。

さらに,SHG増強現象において金探針の構造が果たす役割について,金探針の持つnmスケールの先端形状とµmスケールのシャフト形状の両方に非常に強く影響されて広帯域なSHG増強特性変化することを突き止めた。

シミュレーションにより,探針先端に入射した光の増強は,可視から中赤外に及ぶ幅広い波長領域にわたって有効であることに加え,この局所増強光によって発生したSHG光の放出は,主に可視域で効率よく誘起されることが分かった。

また,入射光の広帯域な電場増強現象はµmスケールの探針シャフト全体の電子が協同的に振動することによって引き起こされる一方,SHG放出過程の増強現象はnmスケールの探針先端に存在する局在プラズモンによって媒介されていた。

これにより,SHG過程における入射光と出射光の増強現象は,それぞれµmスケールの探針シャフトとnmスケールの探針先端という空間スケールが全く異なるドメインが支配的な役割を担っていること,そしてそれらが協奏的に作用することでSHG過程全体が広帯域に増強されるというメカニズムを見出した。

研究グループは,広帯域な非線形光学増強特性に立脚した新奇ナノ非線形分光手法を創出し,極微表面分析手法の新たなスタンダードを打ち立てることを目指すとしている。

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