京都大学と米ローレンス・リバモア国立研究所は,日本と米国の3種類の核融合実験装置を用いた水素分子の分光計測から回転温度を評価し,全ての装置で,回転温度における分子の壁表面との相互作用およびプラズマ中の電子・イオン衝突の寄与の評価可能性を明らかにした(ニュースリリース)。
核融合発電では,磁場で閉じ込めた水素プラズマを1億度に加熱し,イオン同士が衝突して核融合する際に放出されるエネルギーを利用する。
この際,閉じ込め領域から漏れ出たプラズマによって装置の壁が損傷することを防ぐため,壁の近くにガスを入射し,放射と再結合でプラズマを冷却する。
再結合は,プラズマ中の水素分子の振動・回転温度に応じて起こりやすさが変わると考えられており,振動・回転温度を予測し,制御する方法が研究されている。
この研究で対象とした,水素分子の低エネルギー準位の回転温度については,これまで,いくつかの核融合実験装置で計測され,壁の表面温度に依存した値になることや,プラズマ密度とともに高くなることが報告されていた。しかし,回転温度を決める普遍的なメカニズムは分かっておらず,メカニズムを解明し,回転温度を予測することが望まれている。
水素分子の回転温度を決めるメカニズムの解明を目指し,プラズマの温度・密度と壁材料が異なる3種類の核融合実験装置(九州大学 QUEST装置,米プリンストンプラズマ物理研究所 LTX-b装置,米ゼネラル・アトミックス社 DIII-D装置)を用いた比較研究を行なった。
これらの装置で,プラズマと接する壁近くから放射される水素分子の回転輝線線(d3P-a3S遷移,波長600-608nm)をを分光計測し,輝線強度と励起発光過程の解析により,低エネルギー準位の回転温度を評価した。
また,並行して,水素分子が壁から脱離し,プラズマ中に侵入して電子・イオン衝突により励起され,発光するモデルを提案し,モデルにもとづく回転温度の計算を行なった。その結果,3種類の装置で評価した回転温度の実験値は計算で説明できることが分かり,さらに,文献で報告されていた他装置の実験値も説明できることが分かった。
研究グループは,提案したモデルを用いることで,将来の核融合発電炉や現在稼働している様々な核融合実験装置で,水素分子の回転温度を予測し,再結合が起こりやすい実験条件を探索できる可能性があるとするほか,この研究で考慮しなかった高エネルギー準位の温度や表面励起の効果などを考慮することで,予測精度の向上が期待されるとしている。