名古屋市立大学と山形大学と東北大学は,AIで全身の3次元相対座標を瞬時に自動推定できるiPhoneアプリTDPT-GTを使って病的な歩き方を判別することに成功した(ニュースリリース)。
歩行は下肢のみならず,姿勢,バランス,筋力,各身体部位の動作をなめらかに組み合わせて行なう複雑な動作。これらの様々な要因が障害されると,歩行が障害され,日常生活に大きな影響を及ぼす。
しかし,このような複雑な動きを見て,それが病的なのかどうかを見て取るのは,とくに歩行障害が軽症である場合では,ベテランの脳神経の専門医であっても難しい。病的な歩き方を早く発見できれば,リハビリテーションや介護予防,疾患の早期の診断に役立つ。
従来の歩行解析研究では,全身にマーカーを付けて複数台のカメラを連動させ,マーカーの動きを3次元的に追跡するモーションキャプチャーシステムが使われてきた。しかし,モーションキャプチャーシステムは,広い設置場所が必要であり,機器が高額で,計測・解析に時間がかかることが課題だった。
研究グループは,AIによる姿勢推定の画像解析技術を活用することで,体に何もつけないまま,スマートフォンで撮影するだけで,ヒトの頭から足先まで全身24点の動きを3次元座標に自動計測するアプリTDPT-GTを開発した。
直径1m の円を2周歩いてもらい,その歩行中の約6秒間の3次元相対座標の情報を抽出して,GBMという深層学習により,病的な歩き方を感度65.2%,特異度78.1%で判別することに成功した。
今後,すり足歩行,小刻み歩行,開脚歩行,すくみ足,痙性歩行,突進歩行などの各病的な歩き方を判別する深層学習を行ない,それぞれの病的な歩き方と関連する特発性正常圧水頭症,パーキンソン病、頚椎症、脳卒中などの疾患を早期に発見する技術へと発展させていきたいという。
研究グループは,多くの人が持っているスマートフォンで,病院,医院,介護施設だけでなく,家庭でも気軽に病的な歩き方をAIで判別できるようになり,超高齢化社会の我が国において介護が必要となる原因の一つである「転倒・骨折」のリスクを早期に検知し,予防的な介入を行なうことが可能と考えている。