東北大学の研究グループは,シンクロトロン放射光という非常に強力なX線を複数の異なる方向から当てるマルチビーム化という独創的なアイディアなどによって,1ミリ秒を超える0.5ミリ秒時間分解能での4D-X線CTの原理実証に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
近年の高速カメラの進歩は目覚ましく,人間の目の認識をはるかに超える短い時間スケールの現象も1コマ1コマ克明に写し出せるようになり,人類がこれまで知らなかった様々な現象が潜んでいることが分かってきた。
しかしながら,可視光で観察できるのは,おもに物体の表面のみ。X線CTを用いると,物体の投影像を様々な方向から撮影することにより,物体の内部まで3D的に可視化できる。
X線CTは1970年代に開発された方法で,物体の投影像を様々な方向から撮影することにより,物体の内部を三次元的に可視化する方法。病院にあるX線CT装置(CTスキャナ)では,撮影に数秒~数10秒程度の時間を要するが,強力なX線ビームであるシンクロトロン放射光を用いると,さらに高速なX線CTが可能。
しかしながら様々な方向から試料の投影像を撮影するためには試料を高速で回転する必要がある。例えば1ミリ秒時間分解能でX線CTを実現しようとすると,試料を1分間に3万回転という非常に高速で回転する必要がある。
その結果,試料が遠心力で変形してしまったり,流動性のある試料には適用できなかったり,試料環境の制御が困難であったり,といった問題があった。そのため,これまでの4D-X線CTの時間分解能は,シンクロトロン放射光を用いた場合でも10ミリ秒前後にとどまっていた。
研究グループは,シンクロトロン放射光を約30ビームにマルチビーム化する独創的な光学素子と,すべての投影像を同時に撮影するためのマルチビーム画像検出器,さらに,少ない投影数での3D可視化を可能にする圧縮センシングに基づく最先端のCT再構成アルゴリズムを開発した。
この実験は大型放射光施設SPring-8のビームラインBL28B2のシンクロトロン放射光を用いて行なわれ,世界で初めて時間分解能1ミリ秒を超える0.5ミリ秒での4D-X線CTの原理実証に成功した。
研究グループは,この技術の開発により,従来の技術では捉えられなかった繰り返しが不可能な現象の4D-X線CT観察が可能になるため,材料の破壊,流体や粘弾性体などの挙動,機械加工,摩耗,溶接,燃焼など,学術研究から産業応用に至る様々な分野への波及効果が期待されるとしている。