名古屋工業大学の研究グループは,微生物ロドプシンの新たな波長制御残基を発見した(ニュースリリース)。
動物および微生物のロドプシンは,400~700nmの幅広いスペクトル領域の電磁波を吸収する。我々の目は,これらの可視光を色として識別することができるが,光を吸収するために使用している分子はレチナールという発色団(光を吸収するもの)のみ。
これは,レチナールの吸収波長が,ロドプシンというタンパク質の中で厳密に制御されており,紫,藍,青,緑,黄,橙,に代表される様々な光(色)を認識していることを示す。
レチナールの吸収波長はタンパク質内部の環境によって大きく変化する。自然界に存在する2つのロドプシンが同一部位に異なるアミノ酸を持っている場合,それを置換することで吸収波長が反対方向に移る部位を「色スイッチ」と呼ぶ。
レチナールの周りには20以上のアミノ酸が存在するが,タンパク質の構造は精密であるためアミノ酸を置換すると構造が容易に壊れてしまい,これまでに3個(ロイシン/グルタミン・アラニン/セリン スレオニン・グリシン/プロリンの単アミノ酸変異スイッチ)の「色スイッチ」しか見つかっていなかった。
今回,研究グループは,第4の「色スイッチ」を自然界から発見した。具体的には,新規酵素ロドプシンの解析をもとに,N/LIスイッチの存在を明らかにした。N/LIスイッチにおいて,アスパラギン(N)残基では赤方向,ロイシン(L)またはイソロイシン(I)残基では青方向の吸収を示し,変異により吸収波長が逆転する。
そのメカニズムは,アミノ酸の極性により説明される。さらにN/LIスイッチは,微生物ロドプシン全体においても適用可能であることを明らかにした。
生体反応機能の活性化および不活性化を異なる光で制御できれば,より使いやすいツールとなる。太陽に手をかざしたときに,赤く見えるように生体は赤色の方が透過しやすいことから,赤色で活性化できるロドプシンの方が,体内のより深部の光操作が可能となる。
そこで,今回発見した波長制御残基と同じ位置のアミノ酸が微生物ロドプシン全体でどのような性質を持つのかを遺伝子解析ソフトを用いて確かめた。すると一般的なロドプシンは,ロドプシンホスホジエステラーゼと一部のヘリオロドプシンを除くほぼすべてのロドプシンで疎水的なアミノ酸残基が保存されていたという。
研究グループは,ロイシン・イソロイシンといった非極性アミノ酸残基からアスパラギン残基へと変異を加えることで,吸収波長をより長波長化した光遺伝学ツールの創出に期待が持たれるとしている。