名工大ら,中赤外HSイメージングを高速化

名古屋工業大学と豊田工業大学は,高速に中赤外ハイパースペクトルイメージング(HSイメージング)を行なう画期的な手法を開発した(ニュースリリース)。

中赤外ハイパースペクトルイメージングとは,波長ごとに画像を取得する分光技術であり,がん組織の高速診断や,自然界の生物に取り込まれた汚染物質の追跡,検体組織中の薬物分布測定,化学反応の分子レベルでの解析など,幅広い分野への応用が期待されているが,これまでの性能を桁違いに高める技術を開発した。

既存技術では,熱光源や量子カスケードレーザー(QCL)からの光を試料に照射し,その透過あるいは反射光に対して赤外光用検出器で像を計測する。熱光源は,波長帯域は広いが強度が低く,QCLは,強度は高いが波長の帯域が狭い。

そのため,現在の中赤外ハイパースペクトルイメージングでは,可視光領域に比べて,数十倍以上の時間がかかっていた。可視光の装置であれば数秒で測定できるような波長の数と解像度の画像は,中赤外の装置では数分以上,場合によっては数日かかる計算になることもあった。

これまでに独自に開発した「極限的に短い約10フェムト秒(10-15秒)の中赤外光パルスを発生させる技術」を用いると,熱光源と同等の広いバンド幅を持ち,なおかつそのバンド幅全域で位相が揃ったレーザー光を発生させることができる。

中赤外光パルスの強度は高いため,容易に可視光に波長変換でき,それを利用して,中赤外ハイパースペクトルイメージングでありながら,可視光と同等の計測速度,画素数の測定を実現した。

研究グループは,この技術を用いてタマネギ鱗茎の表皮細胞を観察した。形態学的にタマネギ鱗茎の表皮細胞の細胞壁と細胞質を可視光顕微像で区別することができるが,染色せずに細胞核を観察することができない。

一方,中赤外ハイパースペクトルイメージングでは,染色することなく,細胞壁,細胞膜,細胞核および細胞質を区別することができた。また,8秒という非常に短い計測時間 (既存技術では7分程度) でマッピング像から抽出した中赤外透過スペクトルから,タンパク質,糖質,リン脂質といった生体分子を計測することに成功した。

この技術は物質の化学構造情報に敏感な分布計測をすばやく行なうことができ,分子の構造や化学組成などを非破壊的に観察することが可能となるため,がん組織の診断といった医療を含め,広い分野の基礎科学の研究や産業への応用が期待できるとしている。

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