産業技術総合研究所(産総研)は,放射線発生源として独自に開発した加速器を利用し,放射線被ばく管理に用いる線量計のための新たな線量校正場を開発した(ニュースリリース)。
X線の被ばく線量の管理などに線量計が利用されている。線量計の校正場を構築する放射線発生源としては,RI線源と人工的な電場や磁場を用いた機械式線源の2種類があるが,γ線の線量校正場は,RI線源のセシウム137(Cs-137)とコバルト60(Co-60)が主に発生源として利用されている。
しかし,盗取からの防護のためのセキュリティについて厳しい規定がIAEAより定められ,防護の要件を満たすための管理費用から放射線校正施設の維持が困難となっている。そのため,RI線源に頼らない低コストで運用可能な小型加速器のような機械式線源によりγ線の線量校正場を構築する技術が必要となっている。
今回使用した小型加速器X線源は,高周波(5.3GHz)で加速された1MeV未満の電子線を金属ターゲットに衝突させることでX線を発生させる。このX線のエネルギー分布を金属フィルタで調整し,Cs-137からのγ線場と実効的なエネルギーの面で同等とみなせるX線場の構築とその線量の絶対値を測定する技術を開発した。
銅板中での放射線の減弱に関しCs-137からのγ線と同等になるように加速器からのX線エネルギー分布を調整すると,X線によりγ線を模擬することが可能になる。この加速器X線場の線量を,開発した高エネルギーX線場における線量絶対測定技術により決定した。
グラファイト壁空洞電離箱で模擬Cs-137γ線場の基準位置の線量を測定し,取り外した後に同じ位置に一般商用の線量計を置き,照射時に得られる線量計の出力を計測することにより単位線量当たりの応答を得ることができる。応答試験の結果,従来のCs-137γ線場の不確かさ(0.84%)の範囲内で同等とみなせる線量計応答を得ることに成功した。
今回開発した加速器によるX線を利用した模擬Cs-137γ線校正場は,RIのような放射線強度の時間的な減衰がなく,法的な取り扱いも同強度のRIと比較し容易。
また,加速器によるX線の発生には電力や専門知識が必要になってくるため,常に放射線を発生し続けるRIと比較して,大災害時や核セキュリティ上の安全性を高めることも可能。そのため,この技術は線量計校正施設の安全性向上と低コスト化に貢献するという。
研究グループは今後,加速器の高出力化や安定化により,ばらつきが小さく信頼性の高い校正用放射線源としての確立を目指すとしている。