筑波大,光合成能力からユーカリの低温傷害を予測

筑波大学の研究グループは,ほ場における試験栽培と気象データに基づく統計学的モデリング手法により,植林用の樹木(林木)として世界で広く利用されるユーカリが,冬季の低温によって受ける傷害の程度を予測する手法を確立した(ニュースリリース)。

ユーカリ属林木は,世界各地の熱帯・亜熱帯地域で広く商業的に植林される一方,摂氏25度とされる生育最適温度が,実際に冬季どの程度の温度まで耐えられるかといった詳細な条件は分かっていない。

研究では,筑波大学のほ場(茨城県つくば市)で,ユーカリ属林木の代表的な種であるユーカリ・グロブルスを6年間試験栽培し,植物の健全度の指標となる葉の光合成量子収量(QY値)を冬季に定期的・定量的に記録し,これを最もよく説明する回帰モデルを探索した。

植物と低温の関係を調べる際には,ある期間に定められた温度(閾値)を下回る回数(または,定められた温度を下回った温度の積算値)であるチルユニット値が指標としてよく用いられる。

研究では,期間,閾値温度,積算方法等の組み合わせを変えた2万5620通りのチルユニット値の中から,QY値を最もよく説明できる組み合わせを選抜した。

その結果,冬季のほ場におけるユーカリ葉のQY値は,測定日前の過去46日間(46日前から前日まで)に日最高気温が9.5℃を下回った日数によって計算されるチルユニット値を説明係数とした回帰モデルによって,8割以上説明されることが分かった。この結果は,ユーカリの低温傷害が最低気温ではなく最高気温と関係することを示唆する。

研究ではさらに,決定した回帰モデルを用いた2種類のシミュレーション解析を試みた。

一つ目は,ユーカリ植林が可能な潜在的地域の予測に関する地理的シミュレーション。世界各地の気温データと機械学習手法を組み合わせ,世界の陸地におけるチルユニット値の分布を描画し,ユーカリの実際の植林地分布と比較した。

その結果,ユーカリの植林可能とされる地域は,過去46日間に日最高気温が9.5度を下回る日数が35日未満となる地域として予測できた。

二つ目は、温暖化によるユーカリの潜在的植林可能域の変化に関するシミュレーション。101カ所の気象観測点の過去72年分の観測値を基に,過去70年間と70年後の各地点での最低QY値を推定し,ユーカリ植林可能域の変遷を予測した。

その結果,日本におけるユーカリの植林可能地域は過去70年で約2.4倍に拡大していた。また,今後もこれまでと同じペースで温暖化が進行する場合,70年間でさらに1.5倍拡大することが予測された。

研究グループは,林木育種にかかる時間とコストの大幅な削減につながる成果だとしている。

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