兵庫県立大学,京都大学,愛知学院大学は,医療用錠剤の偽造防止や投与時の認証を行なう技術の開発に成功した(ニュースリリース)。
サプライチェーンの安全保障が重要視され,物流のデジタル管理や偽造防止対策の必要が切望されている。リアルな物品には,物品を管理するためのタグやラベルがついているが,物品に張り付けるタグやラベルでは,「はがされる」,「流用される」,「模倣あるいは偽造される」というリスクがあった。
そこで研究グループは,独自の金ナノ粒子ナノ構造体が持つ光との相互作用であるプラズモニック現象を用いて,視認できない信号を発する「ステルスナノビーコン」を開発し,大学発ベンチャーを起業して,今回の技術を錠剤へ適用し,これを実現することに成功した。
金ナノ粒子自己集合体に分子が付着することで,ナノスケールの構造体ができる。ここにレーザー光を照射すると,分子の伸縮や回転などによる入射レーザー光に関する変調が起きる。この時,入射レーザー光とは異なる波長の光が複数発せられる。この光のパターンは分子特有の指紋になる。
この金ナノ粒子自己集合体を印刷などの手法でリアルな物品に点着あるいは印刷することで,偽造防止や情報タグとして利用できると期待されている。
これまで類似した提案や研究報告があった。研究グループでは,以前名刺の一部に印刷することで,名刺のインク以外の信号,すなわち,金ナノ粒子自己集合体からの信号を検出することに成功し,その名刺に目に見えない情報を付与することができることを報告している。
しかし今回,錠剤に付与した金ナノ粒子自己集合体からの信号が,8年以上も劣化することなく判別できることを初めて示した。独自の金ナノ粒子自己集合体の極微量をインクのように錠剤にコートしたり,印刷し,バーコードリーダーのような小型の検出器で光を照射して情報を読み取ることができると期待されているという。
今回の開発により,錠剤のようなラベルやタグをつけるのが難しい製品でもタグ付けが可能となり,安価にデジタル情報と紐付けできるとする。これまでは,錠剤一錠ごとの判別が出来なかったが,この技術が完成すれば,錠剤の製造管理や在庫管理,流通管理だけではなく,飲み合わせの禁忌の情報なども錠剤に書き込みできるようになる。
さらに,いつ,どこで,誰が,どんな薬を服用したのかなどの追跡も可能になることから,研究グループは,治療効果の精度確認や創薬につながるビックデータのもとにもなるとしている。