日本原子力研究開発機構は,電子回路の基礎となる素子「インダクタ」の機能について,絶縁体の薄膜を用いることにより,従来型インダクタと同等の電力効率を保ちつつ,サイズを抜本的に小型化できる新原理を考案し理論的に検証した(ニュースリリース)。
「インダクタ」は、コンピュータや携帯電話など,高速で電気信号を処理するあらゆる電子回路に必須となる素子。電流の急激な変化を妨げるように電圧(誘導起電力)が発生し,この特性(インダクタンス)に基づいて,交流回路を流れる高周波信号のフィルタリングや増幅,電圧のコントロールなどに使われる。
従来から広く商業的に普及しているインダクタには,導線を何重にも巻いたコイルが用いられている。しかし,この形態のインダクタはどんなに小型でも0.1-1mm程度のサイズを占めるため,電子回路の小型化に限界を与える要因となっている。
研究では,絶縁体の薄膜を用いることにより,電力損失が少ないインダクタを極めて小さいサイズで実現できることを新たに理論提案した。この新しいインダクタでは,絶縁体の中でも「トポロジカル絶縁体」及び「磁性絶縁体」と呼ばれる2種類を積層して利用する。
トポロジカル絶縁体は内部に電流が流れず,表面だけに電流が流れるため,余計な電流による電力損失を起こさない。一方でその表面では,電気と磁気の相互変換が強く働き,交流電流を通して磁性絶縁体の磁気を振動させ,また,磁気の振動は交流電圧を生み出す。これにより,交流電流を流すと,(磁気の振動を介して)逆方向の交流電圧が発生する,インダクタンスに相当する機能が実現できることを発見した。
確立した理論による試算では,従来型(コイル)と同等のインダクタンスを,絶縁体インダクタではおよそ10nm程度,すなわち従来型の約10000分の1という大幅な薄型で実現できるようになる。さらに,インダクタ動作の際の電力効率については,従来型の最高値に匹敵する電力効率を,絶縁体インダクタでも達成できるという。
この成果は,電子回路の小型化と省電力化を両立する,基盤技術の足掛かりとなるもの。高周波電子回路中のインダクタを設計していくにあたって,研究で示した基礎原理は簡潔かつ有用な方針を与えるとする。
これまで高速・大容量な信号処理回路中で大きなサイズを占めていたインダクタを,大幅に小型化かつ省電力化することは,身の周りのあらゆる電子機器に高度な情報処理機能を搭載するための鍵となる。研究グループは,IoT社会の進展に大きく貢献することが期待されるとしている。