東北大ら,スピンを利用したインダクタ原理を提案

東北大学と日本原子力研究開発機構は,量子相対論効果である「スピン軌道相互作用」により,創発インダクタ機能がより普遍的な(空間的に一様な磁気構造を持つ)磁性材料で生じることを理論的に明らかにした(ニュースリリース)。

従来インダクタでは,コイルを流れる電流と,その電流によってコイルの周りに生じる「磁場」との間の電磁誘導の法則を介したエネルギー変換が利用される。それに対して,らせん磁性金属で観測された創発インダクタでは,電流と,らせん磁気秩序を形成する「磁気モーメント」との間のエネルギー変換を利用する。

後者のエネルギー変換を媒介するのは,交換相互作用とよばれる電子スピン間に働く量子効果。この交換相互作用に起因して、電流は磁気モーメントのダイナミクスを誘起し(スピン移行トルク),そして今度は,その磁気モーメントのダイナミクスが起電力を生成する(スピン起電力)。この一連の量子現象を通じて,らせん磁性金属はインダクタ機能を発現する。

スピン移行トルクとスピン起電力はいずれも,磁気モーメントの向きが空間的に非一様なときに生じる現象。そのためコイルを用意する必要はない一方で,空間的に「ねじれた磁気モーメント」が必要になる。実際に先行研究では,らせん磁気構造を持つGd3Ru4Al12やYMn6Sn6が用いられていた。

今回研究グループは,量子効果である交換相互作用に加えて,量子相対論効果であるスピン軌道相互作用に着目し,これらの効果の複合的作用により,導線と磁気モーメントのどちらにも「ねじれの無い」系,すなわち向きが一様な磁気モーメントを持つ磁性体においても創発インダクタが発現することを理論的に明らかにし,これを「スピン軌道創発インダクタ」と名付けた。

物質中のスピン軌道相互作用は様々な起源により生じるが,系の空間反転対称性の破れに起因するもの,例えば,結晶構造が反転対称中心を持たない物質や,磁性/非磁性薄膜ヘテロ構造界面においても生じる。後者の場合,磁性材料については鉄やコバルトといったありふれた材料が利用できる。

こうしたスピン軌道相互作用があれば,磁気モーメントの向きが一様であっても,スピン軌道トルク・スピン軌道起電力として知られる量子相対論的効果によって,磁気モーメントのダイナミクス及びそれに起因する起電力が生成される。

研究グループは,このスピン軌道創発インダクタの基礎理論を確立し,その振舞を明らかにした。今後,この原理の実証研究を推し進めることで,電子スピンを介したエネルギー変換現象に基づく,次世代の基盤量子技術の開発が期待されるとしている。

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