岡山大学と北海道大学は,光受容タンパク質であるロドプシンを利用して,緑色の光で壊れるリポソームを開発し,薬物送達に応用できることを示した(ニュースリリース)。
薬物治療において,体内の狙った「時間と場所」に適切な「量」の薬物を送達することは,その薬効発現や副作用の低減において極めて重要となる。このような薬物送達では,現在,ナノメートルサイズのカプセル(リポソーム,ポリマーなど)が用いられており,その内部には様々な薬物が封入される。
具体的には,抗がん剤を内封したリポソームが,がん治療において用いられている。一方で,このようなナノカプセルは,効果部位以外では安定で,効果部位ではその中身を放出するために不安定である必要性,すなわち「ジレンマ」を抱えている。
研究グループは,緑色の光で水素イオン(H+)を取り込む光受容タンパク質RmXeRと,pHによってその構造を変えるpH応答性リポソームに着目した。
この組み合わせにより,①緑色の光によりRmXeRが活性化されH+がリポソーム内に流入,②pH変化に応答してリポソームの相転移による破壊,③内封物の放出,がおこることを明らかにし,光誘起崩壊リポソーム(LiDL)と命名した。
さらに,このLiDLが,試験管内だけでなく,ヒト細胞中でも機能することや,内封物も入れ替え可能であることを示し,薬物送達における有用性を実証した。
今回の研究グループが開発したLiDLは,光がなければ安定であり,光があたると不安定である(壊れる)という性質を示すことから,薬物送達のジレンマを解決しうるものだとする。これにより,光を用いた効果的な薬物送達による薬効の増大や副作用の低減が期待されるとしている。