東工大,6G向サブTHzフェーズドアレイ無線機開発

東京工業大学の研究グループは,第6世代移動通信システム(6G)に向け,100Gb/s超の高速大容量通信を可能とする全二重サブテラヘルツフェーズドアレイ無線機を開発した(ニュースリリース)。

双方向通信には,一方が送信している間,他方は受信のみ行なう半二重通信と,双方が送信と受信が同時にできる全二重通信がある。空間利用効率を上げ,通信スループットを向上させるためには全二重通信が不可欠だが,これまではサブテラヘルツ帯のような高い周波数帯では実現できていなかった。

全二重通信では,無線機の送信回路からの高周波信号が受信回路側に干渉する,自己干渉を厳しく抑制する必要があるが,周波数が高くなればなるほど,不要な干渉の影響が増大する。

さらに,通信に用いる搬送波周波数が高くなるほど,単一のアンテナによる通信距離は短くなるため,ミリ波やサブテラヘルツ帯では多数のアンテナと送受信機をアレイ状に並べるアクティブフェーズドアレイ技術を用いるが,こうした技術では干渉の抑制はさらに困難となる。

今回研究グループは,高周波信号の自己干渉を抑制するための新たなアンテナ構成と,干渉のキャンセル回路を開発し,全二重通信が可能なサブテラヘルツのフェーズドアレイ無線機を世界で初めて実現した。

提案したアンテナ構成は,水平および垂直の両偏波に対応するパッチアンテナを極めて対称性の高い差動回路によって励振するもので,不整合による自己干渉を極力低減する。

さらに可変利得増幅器とスイッチ型移相器からなる利得と位相の調整回路(自己干渉キャンセル回路)を新たに設計し,50dBの可変利得と0.42度分解能,360度の位相可変でアンテナからの自己干渉のキャンセルを図った。

無線機にはダイレクト・コンバージョン方式を採用することで,LOリークの少ないミキサ構成を可能にし,88~136GHzの広帯域増幅器も新たに設計した。

このフェーズドアレイ無線機ICを,最小配線半ピッチ65nmのシリコンCMOSプロセスで作製した結果,サブテラヘルツ帯での全二重通信動作が初めて確認され,8PSK変調で6Gb/s,16QAM変調時に4Gb/sの全二重通信を実現した。さらに,新たに提案した自己干渉抑制回路によって最大20dBcもの抑圧比改善も確認した。

この無線機の半二重通信モードでのデータレートは100Gb/sを超え,サブテラヘルツ帯のフェーズドアレイ無線機としてはこれまでの最高となる112Gb/sの通信速度を達成した。

研究グループは,この技術を用いることで,6Gならではの特長を持つ,新しい通信サービスの実用化が進展するとしている。

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