宇都宮大学,横浜市立大学,基礎生物学研究所,竜谷大学らは,植物体の中の任意の一細胞で特定の遺伝子発現を誘導することができる技術を確立した(ニュースリリース)。
近年,動物分野では,一細胞レベルで遺伝子発現をコントロールするオプトジェネティクスが隆盛となっているが,元々それら受容体を持つ植物では可視光を使ったオプトジェネティクス技術の利用は困難を極めていた。
研究グループは,顕微鏡視野下で標的一細胞に赤外レーザーを照射することができる装置を開発し,さまざまな動植物種において標的となる一細胞でヒートショックを誘導して熱応答性プロモーター制御下で目的の遺伝子発現を誘導する技術を確立している。
この技術は,動物はもちろん,植物での新たなオプトジェネティクス技術として期待されていたが,植物特有の細胞壁を持った大きな細胞サイズなどの課題もあり,標準プロトコールのようなものもなく,誰もが使える状態ではなかった。
また,植物分野で汎用されていた熱応答性プロモーターが定常時にも一部の細胞で活性を持っていたために,特に,誘導して機能を調べようとしている遺伝子が成長や形態に悪影響を与えたり,非誘導時の望まない遺伝子発現が問題となる課題もあった。
そこで研究グループは,①従来よりも熱応答により特化した熱誘導性プロモーター領域の発見, ②ステロイドホルモン受容体融合型CRE組換え酵素とloxP配列の利用,③数多くの試行データからデータサイエンス的技法を用いての最適なレーザー出力値の予測,の3点を融合させ,モデル植物のシロイヌナズナでの再現性の高い標的一細胞遺伝子発現誘導プロトコールを確立した。
この手法をもとに,根の表皮細胞・皮層細胞・内皮細胞、葉の表皮細胞・葉肉細胞・孔辺細胞というさまざまな細胞種において,高い確率で狙った一細胞での遺伝子発現を誘導することに成功した。
この手法で用いた,ヒートショックとステロイドホルモンという二重ロック機構によるゲノム組換えシステムは,非誘導時の望まない遺伝子発現が検出限界以下であり,植物体の中の狙った一細胞でのさまざまな機能を持った遺伝子発現のON・OFF制御はもちろん,一細胞レベルでのゲノム編集などに応用されることが期待されるという。
また,実データからのデータサイエンスに基づく解析は,細胞サイズごとの適切なレーザー出力値も予測。大小さまざまな植物細胞を実験対象にする上での重要な指針も示しており,植物を用いたオプトジェネティクスの標準プロトコールとなるとする。
研究グループは,植物分野ではまだ発展途上であるオプトジェネティクスの重要なブレークスルーとなる成果だとしている。