筑波大学の研究グループは,次世代の省エネ発光素子として注目されている発光電気化学セルの動作メカニズムを,電子スピン共鳴法を用いて解析した(ニュースリリース)。
新たな次世代発光素子として,有機ELと同じ有機発光材料を用いた発光電気化学セル(LEC)が開発されている。有機ELと比べて構造が簡単で柔軟性に富み,印刷技術での低コスト製造が可能。また,有機ELより低い電圧で駆動できる。
その一方,応答速度が遅い,駆動寿命が短いなどの欠点を改善する必要があるが,動作メカニズムの詳細が明確にされておらず,性能向上は得られていない。
詳細な動作メカニズムの解明には,LECの内部で起こる電気化学的な電荷ドーピングによる電荷状態の変化を直接観察する必要がある。電子スピン共鳴(ESR)は,デバイス内部の電荷状態を直接観察するのに有効な手法だが,LECについての詳細な検討はまだ報告されていなかった。
研究グループは今回,電子スピン測定用に独自開発した発光電気化学セルの構造を生かし,ESRとLECの性能を同時に計測する,世界で初めて開発した測定手法を用いた。発光材料のスーパーイエローとイオン液体の陽イオン(P66614+)と陰イオン(TFSI–)を発光層に用いた。
測定ではESRを活用し,LECが動作している状態で,LEC内部の電荷状態(スピン状態)の変化を分子レベルで直接的に捉えた。ESRでは電子の持つ自転の自由度(スピン)を用いた磁気共鳴現象による電磁波(マイクロ波)の吸収を測定している。
その吸収の微分形の信号が印加電圧Vbiasの増加と共に増加することが示された。信号の理論解析により,電子スピン共鳴の増加の起源は,スーパーイエローに電気化学的にドーピングされた正孔と電子であることを突き止めた。
また,信号を2回積分して標準試料と比較することで,LECに含まれるスピンを持つ電荷の数(スピン数)が算出できる。印加電圧Vbiasが増加した時の,LECのスピン数と輝度の変化から,スピン数がLECの性能(輝度)と強く相関していることを見出した。
従来,ドーピングされた電荷の分布には,電荷が陽極や陰極付近にのみ分布する考えと,発光層上に分布している考えがあった。今回,電荷ドーピングの進行が輝度の上昇と相関していることから,電気化学的にドーピングされた電荷が発光層上に分布していることが,LECの動作メカニズムとして微視的な視点から支持された。
今回,初めてこの手法をLECに適用し,微視的な視点から情報の提供が可能となった。研究グループは,低コストな発光電気化学セルの開発を効率よく推進できる成果だとしている。