情報通信研究機構(NICT)は,深紫外LEDを活用し,太陽光による背景ノイズの多い日中・屋外で,かつ送信機と受信機の間にビルなどの障害物がある“見通し外(NLOS: Non-Line-Of-Sight)”環境下において,光無線通信伝送を実証した(ニュースリリース)。
光無線通信は,電磁波ノイズに強く,高速・広帯域なデータ通信が可能なことから,次世代の超高速ワイヤレス通信システムの候補とされる一方,電波よりも波長の短い光は直進性が高く,物体を透過しない性質を持つ。
このため光無線通信は,途中に光を遮る障害物がなく,送信機と受信機が見通し良く向き合った,“見通し内(LOS: Line-Of-Sight)”環境下での通信に限定されていた。また,従来の可視光や赤外光を用いる光無線通信においては,太陽光による背景ノイズの影響を極めて強く受けてしまう問題もあった。
研究グループは,深紫外波長帯(200〜300nm)で発光する窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系LEDの開発と,その深紫外LEDを“見通し外”環境下での光無線通信に活用するための研究を進めてきた。特に,波長280nm以下の深紫外光は,オゾン層で強く吸収されるため自然界には存在せず,太陽光背景ノイズの影響を回避することができる。
また,波長の極めて短い深紫外光は,大気中のエアロゾルや分子と強く相互作用し,高確率に散乱されるため,送信機と受信機の間に障害物がある“見通し外”環境下においても,散乱過程を介して障害物を回り込み,無線通信が実現できる可能性がある。
しかし,“見通し外”環境下における散乱過程を介した深紫外光は,伝送距離に対する減衰率が極めて大きく,高出力な深紫外LEDと,太陽光背景ノイズを高精度に除去する受光システムの開発が必須だった。
今回,波長265nm帯,光出力500mW超の独自開発の高強度シングルチップ深紫外LEDを搭載した送信機を開発した。また,太陽光背景ノイズを高効率に除去し,深紫外波長領域の信号光だけを選択的に取得可能な二重コールドミラーを備えた受信機を開発した。
これを用い,“見通し外”の実験配置において,アイパターンの直接計測を行なった結果,最大80mの長距離伝送,1Mb/sの通信速度で明瞭なアイパターンを確認した。
これは,日中・屋外の“見通し外”環境下において,長距離・高速(Mb/s以上)の深紫外LED光無線通信伝送を達成した世界初の例。見通しの悪い条件下においても,高強度深紫外LEDで高速光無線通信が実現できる可能性が示された。
研究グループは今後,“見通し外”光ワイヤレス伝送の長距離化や大容量化の実証を目指すとしている。