九大ら,長寿命の電気化学発光セルを開発

九州大学と独ミュンヘン工科大学は,電解質との混合が良好な新規なデンドリマー型熱活性化遅延蛍光(TADF)材料を開発した(ニュースリリース)。

電気化学発光セル(LEC)は電界発光デバイスの一種であり,有機ELに対してコスト面で優位性があることから注目されている。

有機EL素子は一般的に多層の有機膜を積層するが,LECは発光材料と電解質を混合した単層の有機膜に電極を付けただけの単純な構造のため,①製造プロセスが簡便(印刷などの塗布プロセスが適用可能)②電極素材を選ばない(安価な金属等が使用可能)③駆動電圧が低いなどの特長がある一方,素子の寿命に課題がある。

LECデバイスの発光材料は有機ELと共通のものが広く使われてきたが,一般的に有機EL用の発光材料は疎水的であるのに対してイオン性の電解質は親水的で混ざりにくく,駆動後に分離するなどして劣化の原因になると言われている。

LECデバイスや有機ELデバイスではホールと電子の注入によって生じる励起状態はスピン統計則に従って75%が三重項となるため,一重項励起状態のみが発光する蛍光材料は効率が低くなる。三重項励起状態が発光するリン光材料は効率が高くなるがIrやPtなどのレアメタルが必要。

近年,第3世代の発光材料として三重項励起状態を一重項励起状態へと変換して発光を取り出す熱活性化遅延蛍光(TADF)材料が注目されている。TADF材料はレアメタルを使用せずに発光デバイスの効率を高める。

研究グループでは新規なデンドリマー型TADF材料をLECデバイス向けに開発し,黄色発光で輝度半減寿命が1000時間以上のデバイス寿命を達成した。これまでに独自に開発した高効率な有機EL向けのTADF材料は末端に疎水的なtert-ブチル基を有していたが,これを親水的なメトキシ基と置き換えることでLECデバイスの寿命が10倍以上伸びた。

デンドリマーは一般的な高分子と比べて分子量分布がなく,純度や耐熱性が高い。開発したデンドリマー型発光材料は電解質としてバイオマス由来の酢酸セルロースを用いた場合にも同様の長寿命を示した。また,電極としてITOに代わりグラフェンも使用でき,重金属を使用せず環境にやさしい材料でフレキシブルな発光デバイスに向けた重要な一歩だとする。

材料の発光効率は20%程度と,上限の100%までは大きな伸び代がある。研究グループは今後,分子構造を見直すことでより高効率で寿命の長いLECデバイスにつながる材料の創製を行ない,青や赤といった発光色を示す材料も開発し,フルカラー表示素子や照明の開発につながることを期待している

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