徳島大学,岐阜大学,情報通信研究機構(NICT),名古屋工業大学は,マイクロ光コムを用いてテラヘルツ波を発生させ,無線通信に応用した(ニュースリリース)。
6Gで扱うテラヘルツ帯は,電気的手法の周波数上限に達する可能性があり,超高周波信号の低出力化や低品質化,信号伝送損失の増大といった問題が顕在化し始めている。
6Gは,光通信と無線通信の伝送速度ギャップを大きく緩和する可能性を有するが,両者間には光技術と電気技術の相違に起因する,光信号と電気信号の変換に伴う時間遅延が生じる。6Gの超高速性を活かしながら汎用性を担保するためには,「光通信と無線通信のシームレス接続」が求められる。
研究グループは,エレクトロニクスの代わりに光学的手法(フォトニクス)を利用した6Gにより課題を解消できると考え,マイクロ光コムをコア技術としたオール光型テラヘルツ通信(Photonic 6G)に関する研究を行なっている。
研究では,6Gキャリア周波数と同等な超高周波光電気周波数信号(近赤外光)を生成可能なマイクロ光コムを用いて,テラヘルツ波を発生させた。等間隔で複数の光周波数モード列が立ち並んだマイクロ光コムから,隣接した2モードを光フィルターで抽出すると,時間領域では光ビート信号が生成され,そのビート周波数は,マイクロ光コムのモード間隔(=frep)に一致する。
この光ビート信号を,光/電気変換素子(今回は単一走行キャリア・フォトダイード)に入射すると,ビート周波数に厳密に等しい周波数を有するテラヘルツ波を発生させることができる。
マイクロ光コムのモード間隔(=frep)は周波数および位相が極めて安定であり,単一走行キャリア・フォトダイードはマイクロ光コムの高安定性を損ねることなく光/電気変換を行なうので,極めて高品質なテラヘルツ波を得ることができる。
ここで,抽出した隣接2モード光の一方に対して,伝送情報を光変調器で重畳させると,発生したテラヘルツ波が変調されることになる。今回は,2Gb/sでOn-Off-Keying(OOK)振幅変調されたテラヘルツ波(周波数560GHz)を用いて無線通信実験を行なった。
OOK振幅変調されたテラヘルツ波を空間伝播させた後,テラヘルツ検出器で受信したところ,時間波形信号の中央部分にeye状の空間を観測し,データ伝送実験の成功を確認した。
今回の手法の最大の特長は低位相ノイズ性のため,研究グループは今後,安定化制御されたマイクロ光コムを用いて超低位相ノイズのテラヘルツ波を発生させ,その優位性を活かしたテラヘルツ通信の実現を目指すとしている。