矢野経済研究所は,パワー半導体の世界市場の調査を実施することで,市場概況や採用動向,個別メーカの設備投資計画や製品戦略を明らかにし,2030年までの世界市場規模予測について公表した(ニュースリリース)。
それによると,2021年におけるパワー半導体の世界市場規模(メーカ出荷金額ベース)は前年比20.1%増の223億7,000万ドル。ここ数年横ばいで推移していた市場は,2021年第2四半期からパワー半導体メーカで受注が積みあがり,後半から増加基調に転じて通年で二桁のプラス成長となった。
2022年はパワー半導体メーカへの受注は好調であったが,半導体製造用の材料や装置,パワーエレクトロニクスに必要な部品の需給が逼迫し,パワーモジュール用の部材調達も厳しい状況が続いたため,2022年のパワー半導体の世界市場は前年比6.8%増の238億9,000万ドルにとどまる見込みだとする。
2023年は,民生用の白物家電,新エネルギー向け産業機器,xEV向けパワー半導体の需要が拡大しており,特に太陽光発電や風力発電システム,HV(ハイブリッド車)やEV(電気自動車)のコンバータ/インバータで使われるパワーモジュールの高い伸びが期待できるという。そうしたことから,2023年のパワー半導体の世界市場は前年比8.0%増の258億1,000万ドルになると予測する。
また,2022年のSiC(シリコンカーバイド)パワー半導体の世界市場規模(メーカ出荷金額ベース)は前年比13.2%増の14億6,000万ドルの見込み。優れた特性を持つSiCパワー半導体は,データセンター向けサーバーや5G基地局,太陽光発電用PCS(パワーコンディショナー),産業機器向け補助電源,EV用OBC(車載用充電器)やコンバータなどの補機類で使われており,SiC-SBD(ショットキーバリアダイオード)だけでなくSiC-MOSFETの採用も進んでいるという。
なお,2020年から大きく伸長しているのが,xEV用SiCパワー半導体。これまではコスト面からEV用OBCが中心だったが,EV向け主機モータ駆動用インバータへの採用が伸びている。そのため,2025年のSiCパワー半導体の世界市場は29億2,000万ドルに拡大すると予測した。
2030年のパワー半導体の世界市場規模(メーカ出荷金額ベース)は369億8,000万ドルに拡大すると予測。2024年以降もIoT(Internet of Things)の普及拡大,脱炭素社会実現に向けて,情報通信や民生,産業,自動車の各分野でパワー半導体の需要は堅調に推移すると見込む。
特に,自動車分野は2026年~2028年頃に向けてEV(電動化),ADAS/AD(先進運転支援システム/自動運転),E/Eアーキテクチャ(統合ECU化による集中制御,車両におけるECUやセンサ,アクチュエータの設計・構成),IVI(次世代車載情報通信システム),コネクテッドカーの開発が同時に進んでおり,クルマ一台あたりのパワー半導体搭載金額が急激に増加する見通しだという。
SiCパワー半導体では,パワー半導体メーカ各社の設備投資が活発化しており,各国による次世代半導体政策が強化されるため,供給量は増加して搭載用途も広がる見込みだとする。
SiCパワー半導体市場をけん引するのは,新エネルギー(太陽光/風力発電)機器やEV用インバータ向けSiCパワーモジュールであり,特に2026年~2027年頃に投入される新型EVにおいてSiCを適用したインバータの採用が進む見込みであり,バッテリ容量が大きく800V給電システムを採用するハイエンドEV(高級・大型EV)向けの需要が伸長する見通しという。
2030年のSiCパワー半導体の世界市場は,パワー半導体世界市場の17.4%を占める64億5,000万ドルに成長すると予測している。