名古屋大学の研究グループは,高い近赤外反射性能をもつ新しい透明導電体ナノシート(Cs2.7W11O35−d)を発見し,これをガラス上にコートすることで,世界最高性能の近赤外反射率53%と遮熱効果を示す日射遮蔽膜(太陽熱カットフィルム)の開発に成功した(ニュースリリース)。
ITOなど従来の日射遮蔽膜は,希少金属の利用やの製造コストなどの問題がある。また,近赤外光吸収による遮蔽効果の特性向上には,膜厚やキャリア濃度を増大させる必要があり,可視光透過性が低下するというトレードオフの問題点があった。
研究グループは,高い近赤外反射性能をもつ新しい透明導電体ナノシート(Cs2.7W11O35−d:dは酸素欠陥量)を発見,環境にやさしい水溶液プロセスにより世界最高性能の日射遮蔽膜の開発に成功し,上記の問題点を一掃した。
層状構造を持つ酸化タングステンの層状構造を層1枚までにバラバラに剥離することで,酸化タングステンナノシート(Cs2.7W11O35)を合成。ナノシートは,水に分散したコロイド水溶液として合成できるため,室温,水溶液プロセスで薄膜を製造できる。
研究グループで開発した高速・液相薄膜作製法(単一液滴集積法)で単層膜を作製。単層膜作製の操作を繰り返すことで,ナノシートの厚み単位で,膜厚を精密に制御した多層膜を作製した。
作製したCs2.7W11O35ナノシート単層膜,多層膜は透明半導体であり,透明導電体の利用のため,酸素欠陥の導入によるキャリア注入を試み,酸素欠陥が導入された還元型ナノシート膜(Cs2.7W11O35−d)を作製した。
この還元型ナノシート膜の表面層へのキャリア注入が実現し,膜厚1−50nmの超薄膜ながら,ITOに匹敵する優れた導電性(シート抵抗:2.2×102Ω/☐)を示すことを確認した。また,優れた近赤外反射特性と可視光透過性を示し,膜厚(積層数)とともに近赤外反射特性が向上することを確認した。
特に,膜厚50nm(積層数20層)の超薄膜は,高い可視光透過率(71%)を維持しつつ,世界最高性能の近赤外反射率53%を実現した。検討の結果,金属−半導体ヘテロ構造が重要であり,表面の金属層(キャリア注入層)で効率的に近赤外光が反射されていることが明らかになったという。
夏場にサーモグラフィによる遮熱試験を行なったところ,還元型ナノシート膜では,ナノシートコートなしの石英基板に対してマイナス16°Cという優れた遮熱効果を確認した。
研究グループは,開発した日射遮蔽膜は,建築物,自動車の窓ガラスに適用することにより,冷房負荷削減,空調の省エネルギー化を実現するキー技術としての発展が期待されるとしている。