KDDI総合研究所と古河電気工業のグループ会社OFS Laboratories, LLCは,現在の光ファイバで利用可能なO帯において,C帯もしくはL帯の約2倍となる9.6THzを一括で増幅可能な,超広帯域な光ファイバ増幅器(ビスマス添加光ファイバ増幅器:BDFA)を使って,40Tb/sを超える大容量なコヒーレント高密度波長多重(DWDM)信号の伝送に初めて成功した(ニュースリリース)。
現在の光ファイバ通信では,主にC帯(1530nm~1565nm)やL帯(1565nm~1625nm)の波長帯が利用されているが,光ファイバ通信のさらなる大容量化に向けてO帯(1260nm~1360nm)の活用が注目されている。
C帯やL帯を用いた光信号伝送では,波長分散による信号の歪みを補償するため高負荷なデジタル信号処理が必要だが,ゼロ分散付近の波長帯であるO帯は,波長分散による影響が小さく,デジタル信号処理の負荷を軽減できる。
一方で,高速かつ大容量な伝送技術に,光の位相を利用するコヒーレント伝送技術があるが,光の位相は他の光信号成分に影響されて歪みやすく,ゼロ分散波長に近いほどその影響を強く受ける。
これにより生じる非線形雑音は,一般的にデジタル信号処理技術で取り除くことが難しいため,O帯ではコヒーレント伝送技術の適用は難しいとされてきた。そこで今回,KDDI総合研究所はO帯コヒーレントDWDM伝送技術を,OFSは超広帯域なBDFAを開発し,非線形雑音の影響を最小化した。
O帯における非線形雑音の最小化については,高密度に多重化した波長信号毎に送信光パワーを適切に設定することで実現した。
これにより,送信機側の信号の補正と受信機側の波長分散補償のプロセスを省いても,非線形雑音の影響を最小化し,平均240Gb/sを超える波長チャンネルを190チャンネルまで多重伝送できる可能性を明らかにし,40Tb/sを超えるO帯コヒーレントDWDM伝送を可能にした。
また,C帯またはL帯のみを増幅できるEDFA(エルビウム添加光ファイバ増幅器)と比較して,BDFAは,C帯とL帯を合わせた帯域よりも広いO帯全域にわたってEDFAと同等またはそれ以上の利得および雑音指数を得ることができる。
実験では,O帯の9.6THzにわたってコヒーレントDWDM信号を増幅し,C+L帯に匹敵する超広帯域を実現できることを示すとともに,従来のC+L帯を用いた広帯域伝送構成の2分の1の機器構成で,低消費電力化を図れることを確認した。
両社は,今回の成果により,既存の光ファイバの潜在的な伝送容量を最大限まで引き出せるとしている。