京大ら,フラーレンに迫る一次元π共役炭化水素開発

京都大学と名古屋大学は,フラーレンC60の一次元部分構造をもつ新たな有機材料の開発に成功した(ニュースリリース)。

フラーレンは多数の炭素原子からなる球状分子であり,優れた電子受容体として有機エレクトロニクス材料への応用が検討されてきた。フラーレンは他の多くの有機材料とは異なり,多くの電子を受け入れても分解しないという特長を有しているが,この性質はフラーレン特有の球状構造に起因すると長らく考えられてきた。

研究では,フラーレンの電子受容体としての特長を実現するためには五角形の部分構造が重要であるとの考えのもと,フラーレンC60と五角形の連結様式が同じ一次元状の有機分子「オリゴビインデニリデン」を設計し,その合成に成功した。

この分子は,五角形の炭素骨格が一次元状に連なった構造をもち,C60よりも対称性がはるかに低く,個々の炭素原子も平坦な構造をもつにもかかわらず,五角形の数と同数までの電子を受容できることがわかった。

この成果を通して,フラーレンの電子受容体としての性質の根本を支えているのは五角形の部分構造であることを明らかにし,フラーレンのの⾼い対称性や湾曲構造を取り除いても,5員環の部分構造を維持しておけば,フラーレンに匹敵する電⼦受容性や多電⼦還元に対する堅牢性を実現できることが明らかになった。

⼀⽅,オリゴビインデニリデンとフラーレンとの幾何構造の違いは,酸化還元挙動や光吸収特性に違いをもたらすことも明らかになった。特に,紫外・可視・近⾚外吸収分光法により,オリゴビインデニリデンが可視光領域全体をカバーする強い光吸収を⽰すことが明らかとなった。

これは,フラーレンC60の可視光領域での光吸収が極めて弱い事実とは対照的な結果であり,電⼦受容性と優れた光吸収特性を両⽴させる⽅法として期待できるという。さらに,鎖⻑の⻑いオリゴビインデニリデンは⽐較的⼤きな電⼦移動度を⽰すことも明らかとなり,電⼦輸送性をもつ分⼦ワイヤーとして有望であることも⽰唆された。

この研究で見出した分子設計手法は,炭化水素骨格のみで優れた電子受容性を実現できる新手法であることから,研究グループは,有機半導体や太陽電池,電池や触媒など,電子の輸送や授受がかかわる様々な機能性材料の開発につながることが期待されるとしている。

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