学習院大ら,光と原子の基本的相互作用を精密に計測

学習院大学と東京工業大学は,極低温のルビジウム原子集団を用い,光による原子のエネルギー変化を,従来にない精度で計測できる新たな手法を開発した(ニュースリリース)。

光と原子の相互作用のうち最も基本的なものの1つとして,光による原子のエネルギーのシフトがある。このエネルギーシフトの大きさは基本的に原子の磁気的状態に無関係だが,わずかに磁気的状態によって変化する。

原子を用いた精密計測や高度な量子状態制御を行なうにあたって,この微小なエネルギー変化を正確に測定することの重要性が増している。

光による原子のエネルギーシフトは,これまで,分光法によって測定されることがほとんどだった。分光法は原子のエネルギー変化を精密に測定できるが,分光法では磁気的状態に依存しない成分も検出されるため,分光法による磁気的状態に依存する微小なエネルギー変化の測定精度は低いものにとどまっていた。

そこで研究では,ルビジウム原子気体をμK以下に冷却し,ボース・アインシュタイン凝縮体と呼ばれる極低温原子集団を準備した。このような極低温の原子は,古典的な波(例えば音波)のように干渉,つまり,強め合いや弱めあいを示す。

この干渉を利用した原子干渉計は,きわめて精密なエネルギー計測を実現できる。例えば,超精密な原子時計にも原子干渉計が用いられている。

研究では,ルビジウム原子気体の5つの内部状態で構成される”多状態”原子干渉計を用いて,光によるエネルギー変化のうち磁気的状態に依存するエネルギー変化のみを選択的にかつ高精度に測定できることを実証した。

具体的には,ルビジウム原子のボース・アインシュタイン凝縮体に照射した波長795nmの光パルスによる原子のエネルギーシフトを測定した。適切なラジオ波(rf)パルスによって原子の5つの内部状態の干渉を起こした。rfパルスの途中に照射した光によって干渉の様子が変化し,出力される原子状態が変化する。

光パルスが弱い場合の干渉計出力は,ほぼすべての原子が単一の内部状態を占めている。光パルスを強くすると原子が他の状態に変化する。各状態を占める原子の割合から光によるエネルギーシフトを推定できる。

光によるエネルギー変化を正しく知ることは,原子を用いた精密測定や量子情報処理にとって不可欠であり,この研究はそれらの基盤を固めるものであるとする。

研究グループは,この手法を応用して原子の磁気的状態に依存するエネルギー変化を精密に補正することによって,古典限界を破る感度を有する量子原子磁力計の実現が期待されるとしている。

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