海洋研究開発機構(JAMSTEC)は,酸化チタンナノ粒子がもたらす生物への毒性とその解毒作用に関する代謝過程を明らかにした(ニュースリリース)。
酸化チタンナノ粒子は,全世界で生産される人工ナノ粒子の中で第2位(68,000トン/年:2016年)の量であり,環境への流出量も沿岸の堆積物で最も多い(123mg/kg:2020年海洋堆積物)と推定されている。
また,2021年にサンゴに有害な成分としてハワイで禁止にされたオキシベンゾンやオクチノキサートの代替品として日焼け止めに使用され,環境への流出量は今後,増加の一途を辿ると考えられている。しかし,酸化チタンナノ粒子には細胞毒性があることが報告されており,新たな環境汚染源として注目されている。
酸化チタンナノ粒子の毒性は土壌動物や淡水藻類でよく調べられており,活性酸素(ROS)や中性脂肪の増加が起こることがわかっている。細胞内のROSは不飽和脂肪酸を酸化し,脂質過酸化反応を起こし,遺伝子毒性,摂食/繁殖障害を引き起こす。
このような細胞毒性は明らかになっているが,多細胞生物の複雑な代謝ネットワークの全容解明や,体サイズの小さな単細胞真核生物の観察が技術的に難しかったことから,どのような代謝経路を介するのかという細胞毒性のメカニズムはわかっていなかった。
そこで研究グループは,単細胞真核生物の中でも体サイズが非常に大きい(約0.3mm)有孔虫を研究対象に選び,酸化チタンナノ粒子の毒性評価を行なった。
研究では,独自に作り出した有孔虫の継代培養株を酸化チタンナノ粒子(1ppm)が含まれる海水培地に曝露し,経時変化を共焦点レーザー顕微鏡観察,各曝露時間と通常状態の発現遺伝子比較解析を行なった。
この結果,曝露24時間後には毒性による代謝が鈍化して細胞は通常状態に近い状態に戻り,有孔虫の細胞内に取り込まれた酸化チタンナノ粒子は有機物に内封され,粘液として細胞外へ排出されることがわかった。
この粘液は環境から酸化チタンナノ粒子を分離し,比重が海水よりも軽いため回収も容易だという。つまり,有孔虫を用いた人工ナノ粒子分離が可能であることがわかった。この結果は今後,細胞毒性を軽減した材料開発や,細胞毒性を抑える薬の開発の基本的な知見となると考えられるもの。
また,有孔虫は粘液を用いて環境中から人工ナノ粒子を分離することから,この生物浄化作用を応用することで,研究グループは,非常に微細であるため,これまで環境からの除去が難しかった様々な人工ナノ粒子を環境から除去できる可能性があり,今後,有孔虫を用いた環境イノベーションが期待されるとしている。