情報通信研究機構(NICT),伊ラクイラ大学,独ハインリッヒ・ヘルツ研究所,豪フィニサー,住友電気工業は,標準外径の結合型4コア光ファイバとこれに対応した光スイッチ試作機を用いて光スイッチ機能を備えた光ネットワークを構築し,世界で初めて実環境下での結合型マルチコア光ファイバの光スイッチング実験に成功した(ニュースリリース)。
増大し続ける通信量に対応するため,新型光ファイバを用いた空間分割多重(SDM)伝送技術の研究が進められている。光ネットワークの構築には,SDMに対応した光スイッチ技術が不可欠だが,結合型マルチコア光ファイバに対応する光スイッチは,実験室での実験の報告はあるものの,実環境下での実証には至っていなかった。
今回,研究グループは,実環境テストベッドに構築した結合型マルチコア光ファイバネットワークにおいて,波長ごとの光スイッチング実験に世界で初めて成功した。構築した光ネットワークは,空間・波長多重信号に対応する光送受信器及び光スイッチ,結合型4コア光ファイバ(62.9km)などから構成され,メッシュ状の光ネットワークを模擬している。
実験では,12Tb/s(6波長多重,4空間多重,500Gb/波長チャネル)の多重信号を生成し,結合型4コア光ファイバで伝送させた後,光スイッチにより波長ごとに経路を切り替えた。
結合型4コア光ファイバに対応した光スイッチは,3方路への切替えを想定し、1入力3出力(1×3)の波長選択スイッチ4台から構成されている。この光スイッチ4台でネットワークノードを構築し,19種のスイッチングパターン(全波長の挿入・分岐,全波長の通過,一部波長の挿入・分岐等)を評価した。
いずれもスイッチング後に正しく受信できることを確認しており,ネットワークノードに要求される基本的なスイッチ機能を全て実証した。
非結合型マルチコア光ファイバではコア間の信号干渉を抑えるため,コア間隔を適切に離す必要があるが,結合型マルチコア光ファイバではMIMOデジタル信号処理により,この影響を除去できるため,標準外径光ファイバにおけるコア数(多重度)拡大の観点で優れている。
さらに,マルチモード光ファイバと比較し,結合型マルチコア光ファイバは長距離伝送時の信号処理負荷(消費電力)を抑えられる。比較的製造が容易な標準外径の光ファイバで構成することから,安価なシステム導入も期待されるという。
研究グループは今後,結合コア数や波長多重帯域の拡大による大容量化を進めるとともに,これに対応するための光スイッチの拡大を図り,長距離・大容量光ネットワークの基盤技術を確立したいとしている。