高輝度光科学研究センター(JASRI),米ローレンスバークレー国立研究所,米SLAC国立加速器研究所,米ウィスコンシン大学,独フンボルト大学,スウェーデン ウプサラ大学は,X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAおよび米LCLSを利用し,光合成中に順次起こる分子の構造変化を明らかにした(ニュースリリース)。
自然界の光合成では,太陽光から化学エネルギーへの変換プロセスの最初のステップとして,光によって水が電子,陽子,分子状酸素に分解される。その活性中心である酸素発生複合体中では,マンガン原子4個が酸素原子で架橋されたマンガンカルシウムクラスターに水由来の2個の酸素が結合し,協奏反応が起こって酸素分子が形成される(Kokサイクル)。
研究では,常温で可視光レーザーを複数回照射することによって励起された酸素発生複合体を,XFELを使った連続フェムト秒X線結晶解析法によって観測し,Kokサイクルの最終反応過程(S3→[S4]→S0遷移)で順次起こる構造変化を明らかにした。
今回の結果は,触媒過程で起こるマンガンカルシウムクラスターの化学変化に応じてタンパク質が変化し,マイクロ秒からミリ秒にわたって発生する一連のイベントを経てS3→[S4]→S0遷移が起こることを示している。
また,この最終反応過程で起こるクラスターからの2個のプロトン放出は,触媒中心から伸びるCl1チャネルの水素結合ネットワークを介して起こり,グルタミン酸残基からなる「プロトンゲート」の構造変化によって制御されることを裏付ける結果が得られた。
つまり,水分解反応のような多電子触媒反応において,自然界の光合成では一連の反応過程がタンパク質と水素結合ネットワークによっていかにうまくコントロールされているかを示しているという。
また,S2→S3遷移中にCaとMn1間の架橋配位子として導入された6番目のO原子OXは,3回目の可視レーザー照射後およそ500から700マイクロ秒後から始まるチロシン残基(YZ)の還元と並行して変化するが,O2発生を示唆するマンガンカルシウムクラスターの構造変化はそれよりも少し遅れて起こることがわかった。
このことは,還元された中間体,おそらく結合過酸化物のような中間体の存在を示唆していると考えられるという。
この研究は,光合成の最初のステップである水の分解反応の解明に大きく貢献するもの。研究グループは,このような光合成における化学過程の解明は,人工光合成の実現に向けた開発への重要なステップとなるものだとしている。