東京農工大学の研究グループは,ベンゼンを光エネルギーを用いた穏やかな反応で有用な物質へと変換する手法を開発した(ニュースリリース)。
有機化合物の代名詞とも言える「ベンゼン」は,多くの医薬品や機能性材料に含まれる一方,ベンゼンそのものは極めて安定で反応性に乏しく,有用な物質へと変換するためには,一般に毒性の高い試薬や高価な遷移金属触媒を用いて加熱条件に供する必要がある。
研究グループはこれまで,穏やかな反応で炭素と炭素を繋ぎ合わせる独自の物質変換法や,エネルギー効率を最大限に高めた反応技術を報告している。今回研究グループは,光エネルギーを用いた穏やかな反応で,極めて安定なベンゼンを有用な物質へと変換する技術の開発に取り組んだ。
近年,有機合成化学で古くから用いられてきた2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン(DDQ)と呼ばれる穏やかな反応剤が,光を浴びることによってベンゼンを効率的に有用な物質へと変換できることが報告されている。従来の技術では1つのベンゼンと1つのDDQが反応するため,ベンゼンと同じ数だけDDQが必要だった。
研究では,このような変換技術をより環境に優しいものへと発展させることを目指して,DDQの使用量を削減することに取り組んだ。様々な反応条件を調べた結果,用いる光の波長を可視光から紫外光にするだけで,必要なDDQの量を5分の1以下に削減できることを見出した。
詳細なメカニズムはまだ明らかになっていないとするものの,反応に用いる僅かな光の波長の違いがこれだけ大きな影響を及ぼしたことは予想外のことだという。
この成果は,極めて安定で反応に乏しいベンゼンを,医薬品などの原料として活用することに繋がるもの。研究グループは,詳細なメカニズムを解き明かし,さらにこの変換技術が発展していくことが期待されるとしている。